マラドーナが亡くなったニュースを受け、急遽2年前にNHKで放送された「ワールドカップ名勝負」のうちの1試合、あの5人抜きと神の手ゴールで知られるメキシコ大会決勝のアルゼンチン対イングランドの試合が再放送された。
試合の序盤はイングランドペース、4-4-2のフォーメーションら鋭いサイドアタックでアルゼンチン陣内へ攻め込み、前半12分にはアルゼンチンGKプンピードが足を滑らせ、ガラ空きになったゴールにべアズリーがシュートもサイドネットに外してしまう。このシュートが決まっていたら結果は大きく変わったかもしれない。
そこからは、マラドーナやブルチャガを筆頭に、ほとんどの選手がドリブルで打開する能力を持つアルゼンチンがジリジリとイングランドを押し込むようになり、逆にイングランドはリネカーがマンマークで完全に消され、中盤との距離が空いて孤立してしまう。
すると前半36分、マラドーナが自陣でボールを受けてターン、それまではマラドーナがボールを持ったらすぐに2~3人がタックルに行って自由を与えなかったのに、この時はフッとエアポケットのようにスペースが生まれ、そこから60m以上を単独ドリブル、シュートまで持っていくもDFに当たってホッジが必死でクリア。
そして後半6分、マラドーナがドリブルで中へ切れ込み、ワンツーを狙ったパスにイングランドDFが足を出し、浮いたボールに一瞬手を上げたマラドーナとGKシルトンが競り合ってゴールイン、いわゆる「神の手ゴール」が決まりアルゼンチンが先制。しかし何度見ても審判がこれを見落としたのが不思議。
さらに後半10分、イングランドが前に出て来たところでミス、そこからマラドーナがピッチ中央でパスを受けると2人に挟まれながら鋭くターン、そこから追いすがるイングランドの選手を軽々振り切り、最後はPA内でのダブルタッチでGKも交わして2点目、いわゆる「5人抜きゴール」である。
2点ビハインドのイングランドがその後はボールこそ支配するものの、ビルドアップにミスが多くてなかなか攻撃のリズムを作り出せない。ようやく後半24分に、ホドルのFKを横っ飛びでプンピードが防ぐイングランドの決定機。
この頃からイングランドは3トップに変更、前線にロングボールを放り込んでセカンドボールを拾う、伝統のキック&ラッシュ戦法に切り替えてチャンスが増える。そして後半36分、交代で入ったバーンズが左サイドをドリブルで突破、クロスを上げるとここまで存在感が無かったリネカーが頭で押し込みイングランドが1点差。
後半43分にはまたバーンズのクロスにリネカーが飛び込むもギリギリでクリアされて同点ならず。そしてロスタイムはわずか1分で試合終了、アルゼンチンが1978年大会に続く8年ぶり2度目の優勝を飾った。
終盤にバーンズを投入してからの猛攻を見れば、何故その試合を最初からやらなかったのかと思うが、イングランドにしてみたら後半まで無失点で守り、そこから勝負に出る作戦だったのかもしれない。その意味で、「神の手」ゴールが全てを狂わせたと言えるのかもしれない。
それにしても、悪魔のような神の手ゴールと、神様のような5人抜きゴールという両極端なシーンが共存するこの試合は、まさにピッチ内外でマラドーナが放っていた強烈な光と影を象徴する90分なんだなと痛感させられるのであった。R.I.P.