「当たり前に強くなったからこそ当たり前の監督を」カタールW杯 森保ジャパン総括

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ロシア大会に続き、決勝トーナメント1回戦で敗退を喫してしまった森保ジャパン。思い入れがあまり無かったのでそんなに強く提言したいことは無いんだけど、とりあえず総括らしきものを書いてみる。

森保ジャパンといえば、田嶋会長が高らかに提唱する「ジャパンズウェイ」が代名詞。選手の自主性を最大限に尊重するという名目で、戦術の整備は選手に丸投げ。クロアチア戦では、PK戦の順番すら選手がその場で決めたぐらいの徹底した戦術レス。

ロシアW杯前に、ハリルホジッチの専制的なチーム作りに本田ら選手が反発、空中分解寸前で監督解任、西野監督が急遽就任するも、戦術をイチから構築する時間が無くて選手に丸投げ、これが存外に上手く行ってベスト16、これで味をしめた田嶋会長は「ジャパンズウェイ」と称して、日本サッカーの日本化に対する答えとして開陳した。

そこから4年、森保監督のチームはカタールW杯の初戦でドイツと対戦、前半は4-2-3-1を完全に攻略されて決定機を作られまくるも1失点に抑えると、後半は練習していなかった3バックに変更、一気にハイプレスから2点を奪って劇的な勝利。

しかし2戦目の格下コスタリカ相手には、攻撃で何も出来ず敗戦する浮き沈みの激しい結果。アジア予選でも苦労した、連携不足で引いて守る相手を崩せない弱点を露呈。カウンター特化チームとして戦わざるを得なくなった。

スペイン相手には、鎌田がフランクフルトでバルサを破った戦術をコピー、ドイツ戦で3バックを使った経験が生きてまたも同じ手口でジャイアント・キリング。これで森保監督は「勝利の方程式」を手にしてグループ1位、ブラジルとの対戦を回避してベスト8が視界に入ったかに見えた。

クロアチアがドイツやスペインと異なったのは、日本の3バックや三笘に対して十分な情報と対策を持っていた事。高いラインの裏にボールを送り、セカンドボールを拾ってアーリークロス、これで日本はラインが下がってしまい、伊東や三笘が低い位置に押し下げられて攻撃に絡めず、前線の選手が孤立した。

こうなると攻撃は前線へ長いボールを蹴り出すしか無くなり、浅野はグヴァルディオルに完封。4バックに変更して三笘や伊東を高い位置に押し上げるサッカーにも変更できず、日本は単調な攻撃のまま追加点を奪えずPK戦、そして選手の立候補による順番決めがその場で行われ、何の対策もしてなかった日本は3連続失敗で終戦。

この流れを見ても明らかなのは、選手主導で戦術を決めてもプランAまでしか準備が出来ず、ドイツ戦の3バックはたまたま当たった博打、そこから3バックがプランA化し、4バックはプランBとしては使えず廃案という事実である。プランA+奇策でグループリーグは切り抜けても、相手が全力で日本をリスペクト、研究して対策を取られてしまうと全く通用しない。

そしてプランAについても、戦術を主導する中核選手の経験と判断が主体であり、反復練習によるオートマティズムが無いので、中核選手が居なくなったり調子が落ちてしまうと、コスタリカ戦やクロアチア戦終盤のように戦術がとたんに機能しなくなる。これらの問題は、4年前のロシア大会の時にも分かっていた事である。

ロシアW杯メンバーのうち、欧州1部でプレイしていた選手は12人だったのに対し、カタールW杯では実に17人。しかもチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグに出場している選手も多い。デュエル能力と経験が高まった分、守備力は明らかに向上した。が、攻撃はエムバペがいるならともかく、日本人程度ではビルドアップの形や複数人数での連携が必要になって来るが、話し合いとすり合わせで戦術を決めるジャパンズウェイでは、連携が出来る前に試合が来てしまう。

この準備時間の不足については、アジア予選からずっと付きまとっている問題である。冨安は「こちらからアクションを起こすことも必要」と言っているが、ドイツ代表さえパスワークを維持するためにバイエルンの選手を中心に選び、スペインはバルサの選手が主体となっている現状では、選手主導のジャパンズウェイではさらに絶望的。かと言って、ブラジルやフランスのような個としての強さを全面に押し出すチーム作りも不可能。目標はあっても具体的な方策は今のところ全く見つかっていない。

とは言え、ジャパンズウェイにメリットがゼロというわけではない。監督が指示する戦術が絶対の欧州リーグでプレイしている選手にとっては、自分たち主導で決められる場がワールドカップと言うのは、何物にも代えがたい魅力だろう。ほぼ”監督”だった吉田なんかは、森保監督に対する感謝の思いがインタビューから突き抜けているし、長友もTweetで最高のチームだと絶賛、一見するとチームのまとまりが素晴らしかったように見える。しかしチーム作りに深く関わったベテランはともかく、町野、柴崎、シュミット・ダニエル、川島は出場時間無し。伊藤、上田、山根、相馬はコスタリカ戦のみで見切られてしまった。森保監督の視界に入らなかった彼らのリアルな本音にマスコミが迫る事は無い。

はっきり言って、今回ジャパンズウェイでも何とかなったのは、鎌田や遠藤、久保、板倉といったヨーロッパの一線で活躍している選手が、自チームで行われている現代戦術を理解して代表に落とし込んだからこそ、4年前のベルギー戦のような崩壊には至らなかっただけである。

今大会、最も目覚ましい活躍を見せたモロッコは、単に個人のフィジカルやスピード、テクニックが優れていただけでなく、常にバランスが取れたポジションを取っていて、あのフランスにゲーゲンプレッシングを仕掛けてボールを奪い返し、終盤まで優位に試合を進めていた。予選を率いていたハリルホジッチは主力選手と揉めて大会直前に解任されてしまったが、彼が鍛えた戦術的な土台があってこそのベスト4であった事は間違いない。

代表は集まる時間が短く、クラブとは違って戦術を浸透させる時間が無いから戦術にこだわるのは間違いだという言説もあるが、それは全くの逆で、短い時間だからこそ選手間ですり合わす部分で出来るだけ小さくするための、ベーシックな戦術の型が必要なのだ。コミュニケーションや(スポンサーへの)気配りの問題から日本人監督という方針は分からなくもないが、選手以上に経験があって戦術を理解している日本人監督など、就任まであと8年はかかるであろう長谷部監督しか期待は無い。

ちょうど中村憲剛氏がW杯についての総括を書いていたが、まさにこの通りでサッカーの強化に近道は無い。ドイツやスペインに勝ち、クロアチア相手に引き分けられるぐらいに日本代表が成熟して来たからこそ、ジャパンズウェイなどという独自性を売りにするのではなく、戦術だろうがデュエルだろうが、世界レベルで当たり前の事を当たり前にやる監督が就任するべきなのだ。

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