2003年6月23日

・ジーコジャパン中間総括

以前より、ジーコについてはコンフェデまで見ると公約していたので、予定通り結論を出してみたい。

正直、ここまで見る限りではジーコはド素人監督以外の何者でもないと言わざるを得ない。以下、問題点を列挙してみる。

・言行不一致

J2からは代表に呼ばない(下田の召集)、U-22はA代表のレベルには無い(コンフェデでの大久保レギュラー)、練習のための合宿は必要ない(SARSで中止になった東アジア選手権時に予定通り合宿)、パラグアイ戦はアルゼンチン戦の疲労やサブの試合感を考慮した選手起用である(結局パラグアイ戦以降そのまま)などなど、言行不一致、後から付け足しの言い訳には枚挙に暇が無い。まあ別に監督などは何を言っても勝てばいいわけで、とりたてて聖人君子であれと言うつもりは無いが、経験と人格とカリスマを売りにしている人物としては情けないことこの上ない。

・結果オーライの選手起用

中山、秋田、名良橋といったまず2006年には代表にいないだろう選手をレギュラーで重用し続けて(彼らに罪は無いが、代表=国際経験という現状では将来性優先なのは仕方ない)アルゼンチン戦まで引っ張ったあげくにパラグアイ戦で総とっかえ、それがたまたまうまく行ったらそのまんま、永井のようなまだまだA代表レベルに無い選手を韓国戦のラッキー得点という結果だけで呼びつづけ、宮本と同じような仕事が出来るのは確実な森岡を連帯懲罰で秋田らと共に丸ごとサブに追放、たまたま韓国戦で良い働きを見せた大久保をそのまま代表レギュラーに抜擢など、どう見ても結果オーライの行き当たりばったりでしかない。

・時代遅れの戦術論

一人余る守備という、コンパクトにするためにはレアル並のポゼッションが必要な戦術にこだわり、アルゼンチン戦ハーフタイムでの選手による自主的なラインディフェンスへの転換でやっとこさコンパクトサッカーを実現する始末。攻撃についても、指示は中田におんぶにだっこでコンフェデになってようやく形が出来たというていたらくで、残念ながらカピタンの言っていたジーコは攻撃から入るという発言を裏付けるものは何も無い。

・硬直的な采配

今までの試合を見ても、選手交代は疲労の見えた選手か、ビハインド後の今までろくに使ってもいない選手の投入しか無く、戦術的に変化を付けるための選手投入と言うものが存在せず、「たまたま」結果が出た事はあっても戦局ががらっと変わるような場面というものが無かった。また、最終盤に永井を投入したところでパワープレイの何の役にも立たないように、選手の特性を理解している采配をしていたとも言いがたい。

・戦略の不在

5日で3試合なのにベストメンバーを引っ張りつづけたコンフェデの采配は言うに及ばず、上記の2006年を考慮しない選手選考、サブはあくまでサブで選手層の厚みを増やそうとしない方針、なによりもアルゼンチン戦までの試合内容の停滞など、あまりにも戦略的な無駄、無策が目立ちすぎる。

とここまで書くと、ジーコを擁護する要素のあまりの足りなさに自分でも頭がくらくらするぐらいだが、一つ大きなエクスキューズが存在する。それは、「中田現場監督」の存在である。

ここでも度々書いているように、中田は自分のやりたいサッカーが非常に明確で、それを他の選手に対して具体的に指示できる選手である。反対に言えば、自分の望むサッカーしか生きないしやりたくないと言う非常に扱いづらい選手でもある。だがコンフェデでの働きを見るまでも無く、名実共に日本の大黒柱である中田を抜きにして代表チームは成り立たない。

もし、ここにファンハールのようなトルシエやプランデッリに輪をかけたような戦術本位の監督が来てしまったらどうなるだろうか。まず間違いなく中田と監督は衝突し、2006年は中田不在(か再び監督交代)で迎えることは確実だろう。少なくとも今現在中田が気持ちよくプレイしている事は明らかであり、悲しいかな中田の望むような自由を与えてくれる監督を協会が確実に呼んでくれる保証はどこにも無い。

そしてもう一つ考慮すべき事は、偶然と幸運の積み重ねと中田や宮本の尽力の結果ではあっても、徐々にではあるが代表チームが日本の良さを生かした本来望むべきものに変化して行っていると言う現実である。宣伝じみて恐縮だが、以前に「ジーコジャパンの今後」というコラムの中で強化ポイントを挙げたのだが、予測が外れたのは三都主のSB起用ぐらいであってあとはほとんどクリアされているのだ。

事実、コロンビア戦は結果的にミスで敗北したとは言え、ベースとなる守備組織はスピードのあるDFを中心としたフラット4のプレッシングサッカーであり、攻撃の組み立ても速攻の形はまだ出来ていないものの、中盤を中継したタッチ数の少ない素早いパス回しでしっかりつなげるスタイルになって来ていて、このまま試合経験を積んでいけば2006年にもさほど恥ずかしい思いをしないで済むチームになるだろうなという感じがある。

もっとも、サンドニのように強い相手がガシガシ鬼プレスをかけて来たり、ノルウェーのように巨人チームがハイボールで攻めて来る試合というのも今回は経験できなかったわけで、それで4バックが耐えられるのか、中村が活躍できるのかと言う宿題は残ったままだが、強いチームが組織的にプレスをかければ強いのは当たり前で、そんなのに効く特効薬など誰も持っていない。ひたすら経験して徐々に対応するしか無いのだ。

ただスタイルに問題があるとすれば、トルシエサッカーほど速い攻撃に特化しているわけじゃないのでFWの能力が上がらない限り得点力不足は続くかもしれない。しかし、ハーフカウンター一辺倒のサッカーをつまらないと思っている人が多いようなので、この方向のほうがサポーターのコンセンサスは取りやすいのではないだろうか。

それはともかく、中田や中村、宮本などのレギュラーメンバーがいない時に果たして同じようなサッカーが出来るかと言う懸念はあるが、ここで下手に体制を変えてスタイルを一から構築し直すというのがギャンブルなのも確かだ。今の良い形になって来ているスタイルを、いかに代表選手隅々にまで浸透させるか、そして個人の力を伸ばして決定力や守備のミスといった部分をレベルアップ出来るかが今後の焦点と言えるだろう。

以上の事を総合すれば、(中田がいない時の)戦術指導や選手起用は山本コーチが担当し、小野現広島監督のようなスカウティングブレーンの強化、選手選考はエドゥーと技術委員会メンバーが合議で決定、そしてジーコは年俸を大幅減額した上で、「君臨すれども統治せず」の象徴監督として最終的な承認と海外との外交役に専念してもらう事がベターであるように思う。もちろん、中田も納得してプレイできるだけの戦術に引き出しがある能力の高い監督に交代するのがベストではあるのだが、コンフェデの成績をもってジーコを糾弾するには不十分であり、カピタンの庇護を考えれば現実的には難しいだろう。

従って、解任かどうかで言えば消極的保留というのが現時点での私の結論である。

だが、アジアカップまでの猶予はとうてい与えられない。今後、たとえ親善試合であったとしてもジーコが象徴監督としての越権行為をして、ラインディフェンスの放棄や先を見ない選手選考、中田や中村がいない時の対策の放置などをしてしまった場合には即座にダメ出し、というスタンスで厳しく見守っていきたいところである。


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」