2003年4月20日

・ジーコジャパンの今後

ジーコが日本代表監督になってから、韓国戦でようやく初勝利を挙げる事が出来た。私個人の感情としては非常に嬉しい。

このサイトでは就任以来ジーコ監督に対して厳しい事を多く書いているので、私の事をアンチジーコのトルシエ信者と思っている人がいるかもしれないが、私自身ジーコの大ファンなのである。だから、これまでの試合で勝てなかった事でジーコが暗い顔をしているのを見るのはつらかったし、初勝利に喜ぶ顔が見れてこっちも素直に嬉しかった。

が、それと日本代表の強化の評価は別物である。ましてや、2006年は2002年W杯を経験した世代が成熟の頂点を迎える時期である。自国開催や予選免除など、ある意味「お祭り」的であった2002年に比べ、次の大会は日本の本当の価値が問われる大会である。ここで再び惨敗を喫してしまうと、世界の記憶は北朝鮮のようなフロック扱いで終わってしまうだろう。それだけに、アジア予選突破が当面の目標であるとは言え、アジアだけを見ているようなサッカーであってはならないのである。

トルシエ時代、私はサッカーカフェで一貫してトルシエを支持する書き込みを続けていたが、それは別にそばが好きだとか日本が好きだとかマスコミと対決するからだとかの人格的な事や采配能力はどうでも良くて、ひとえにトルシエの取った方法、すなわち技術レベルが一桁違う若手を鍛え、世界に比べればはるかに劣る個の経験と能力をカバーするために攻守を組織化し、比較的優れている中盤を多く使用するためにDFは3枚、点を取れるFW無しで勝つために高い位置でのプレスからの速攻をメインの戦術にするといった事が、日本を強化するために非常に理にかなっていると思っていたからなのである。

つまり、個のレベルが劣っているという前提で、それでも世界と戦うにはどうすれば良いかという一貫した戦略でチーム作りがなされていたわけで、結果的にそれはベスト16というノルマ達成で証明されたと言える。

そういう観点から見るとジーコのやり方というのは、あくまでその時点でベストと思われる人材を使用し、適切なポジションバランスで戦うというものであって、最終的なチームレベルの目標や戦略といったものが非常に分かりにくい。個の能力で言えば日本は世界トップレベルからまだまだ遠いのが現状であるし、DFの移籍の難しさを考えると、トータルの質があと3年で劇的に向上するとも思えない。一昨日の韓国戦にしても、国内組中心のアウェイとは言えとうてい内容で韓国を凌駕していたとは言えないわけで、今までの4戦で確実に見えたものといえば、アジアトップレベル相手であれば何とか互角に戦えるだろうという事だけである。

しかし、内容はともかく韓国戦で勝った事は今後の強化にとって非常に大きいものであった事は間違いない。もちろんそれは韓国戦のメンバーや戦い方でOKという意味ではなく、ジーコにも選手にもこれからコンフェデまである程度試行錯誤が出来る精神的、時間的余裕が出来たという事に過ぎない。宿敵に勝ったといつまでも喜びに浸っている場合じゃ無いのだ。

そこで、世界レベルを考えた場合のジーコジャパンの強化ポイントを挙げてみたい。

・DFラインのスピード

フラット3のようなオートマティックなライン守備でないジーコ戦術の場合、ラインの高さというのは選手の判断、つまり相手FWの前でカットするのか後ろに控えるのか、FWとの足の勝負に勝てそうかどうかといった、精神的な優劣が大きく関与してくる。つまり身体能力の低いDFが安全指向になればべた引きになるし、逆なら高くなる。

そういう意味で松田はともかく秋田も森岡も能力は優れているが足は決して速くない。となるとどうしても引き気味のポジションが増えてしまう。ローマにサムエルが加入してラインの高さが様変わりしてとたんにプレスが効き出したのとちょうど逆の例だ。

それでも韓国戦のように、サイドからクロスを上げられても引いた中できっちりマークすれば良いという考え方はあるが、それはアジア相手では通用しても昨日のアーセナル対マンUのギグスのヘッドのように、精度の高いクロスと一瞬のマークミスがあれば世界では簡単にやられてしまう。

攻撃面で見ても、ビエリもオーウェンもいない日本では、欧州以上にコンパクトさが得点チャンスの数を大きく左右する。そういう意味でも坪井や土屋など身体能力の高いDFに経験を積ませる機会を設けるべきであろう。

・SB、SB、SB・・・

ジーコも認識している事だが、このポジションの層の薄さは日本最大の弱点である。最近はJでも4バックを採用するチームが増えてきてはいるが、私の見る限りでは正直ろくな選手がいない。世界レベルではSBにはCB並みの守備力と正確なクロスが求められるのだが、単にWBを後ろに下げましたというような選手ばかりである。つまり守備があまりにも物足らないのだ。

そこで、技術レベルの高い若手のCBにSBとしての修行をさせる事を提案したい。特に角田は3バックの京都では左CBなのが残念だが、守備は堅いし、たまに攻めあがったときの良いクロスなどを見ると、若手の中では最右翼の候補だと思う。とは言え誰を持ってきても最初はボロボロで使い物にならないだろうが、Jを待っていたのではいつまで経っても育たない。ぜひジョルジーニョでも呼んで英才教育をほどこして欲しい。

・FWの組み合わせ

中盤は実績、能力を考えるとやはり欧州組が中心になるのは間違いない。しかし小笠原を含めても力のある選手は全てパサータイプであり、韓国のようなサイドの1対1やドリブルで勝負できる人材がいないので、どうしてもFWは2トップという事になる。

一般的に欧州のクラブでは、FWはヘディングやポストプレイで中盤につなげる電柱タイプと、裏を取ったりサイドに開いて攻めあがるようなスピード決定力タイプの組み合わせがほとんどである。特にコンパクトなサッカーが主流になっている最近では、スピードタイプの重要性はますます高まっているといえる。

ジーコの場合、今までは鈴木と高原をペアで使っているが、どちらもポスト、スピード共に中途半端で狙いがはっきりしていない。とは言え中盤が広くなりがちなブラジル式4-4-2のポストを世界レベルでこなせる選手はいないし、実績を考えると高原は外せないので、鹿島のエウレルと柳沢の関係のような、サイドのスペースを使いながら変幻自在な動きで攻撃を組み立てる前線を目指すべきだと思う。となるとスピードタイプが必要だが、例に出た柳沢以外は今回得点した永井を含めてA代表で経験を積んだ者がほとんどいない。

しかし前にも書いたように、大久保や坂田などアテネ世代に有望な選手が出てきているので、いきなり起用はしないまでも練習に呼んで力の伸びをチェックする機会は必要だろう。

・ポゼッションかカウンターか

ジーコの目指すサッカーは間違いなくテクニカルなポゼッション指向のサッカーなのだろうが、高い位置でのポゼッションを維持するためにはDFラインの高さが必要不可欠である。レアルにしてもミランにしても、攻撃ばかりが注目されるが攻めている時の守備ブロックの高さというのは凄いものがある。逆に、ラインが低ければ攻撃場面で各人が走る距離が長くなり自然とカウンターサッカーになるのである。

韓国戦では国内組だけの参加になったために、小笠原と三都主の走力のあるカウンター向きの選手が選ばれてうまくゲーム展開とはまったのだが、ポゼッション向きの中村と小野があの展開で果たして機能したかどうか。とは言え欧州組の参加で同じ展開になるかどうかは分からないわけだが、どこを相手にしても同じメンバーで戦うのであれば、これからコンフェデなどの試合を通じて、前述のDFのラインの高さの問題を含めて基本的な方向性というものを固め、そのプランに乗っ取った人選をし直す必要が出てくるはずだ。

いずれにせよ、トルシエのように若い世代の代表を兼任していない分、ジーコの現実的な目標を確認する機会は少ない。東アジア選手権は時間が無いので判断は難しいだろうが、欧州組が参加してある程度の合宿期間が取れるコンフェデ杯が一つの目処になるだろう。そこで上に挙げた課題をどれだけ消化できるのかに注目したい。


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」