2003年2月1日

・ジーコが作る車とは

ネタが枯れている時は本に限る。と言うことで、今度はジーコの自伝を読んでみた。やはり、ジーコのチーム作りに関するキーとなりそうな文章がここにもいろいろ出現している。ざっとかいつまんで挙げてみよう。

こう並べてみると、改めて驚かされる。「ジーコ=テレ・サンターナ=コウチーニョ=クライフ」だったとは!

鹿島と74年オランダと言う現実の格差は置いといて(笑)、目指すサッカーだけで考えると、高いラインとプレッシング、そしてポリバレントな選手によるポジションチェンジと言うトルシエが本来目指した、ナイジェリアワールドユースやアジアカップで見せたスタイルとかなり近いと言う事になる。

とこう書くと、「規律でがんじがらめのトルシエと自由なクライフとどこが同じなんだ」と言われそうだが、それはアクティブ・サスペンションと、従来型のパッシブ・サスペンションのようにアプローチが違うだけで、どちらも車を安定して走らせるためのものには違いが無いと言うことに例えられるのではないか。

ご存知のように、アクティブサスペンションのシステムは、路面の状態や車の挙動の状態をセンサーで感知し、車体が安定するようにコンピュータで車輪の高さを油圧で制御するというものである。

トルシエのシステムも、ボールの位置や状態によってのラインの上げ下げや、相手のFWに対してオフサイドラインを活用して先手を取る守備という点でアクティブであると言える。そして守備への判断の関与する範囲が比較的狭いため、システム、つまりプログラムさえ理解していれば違う選手が入ってきても機能できる。

逆に欠点もまた似た性質を持つ。アクティブサスペンションがプログラムがあらかじめ想定した範囲の物理状況にしか対応できないように、サッカーも、ラインを能動的に動かせるだけの余裕がプレスによって確保されていないと、とたんに機能しなくなる。

パッシブ・サスペンションは言うまでも無く従来型のサスペンションである。サッカーで言えば、バネであるプレイヤー一人一人がその場その時の状況に合わせて判断する事で、車体、つまりチームを安定させる仕組みだろう。良くチューニングされた性能の良いサスペンションならばどんな路面でも安定するように、プレイヤー全員が高い技術と判断力を持ち、意思疎通による共通理解を持てば対応力の高いチームが出来上がる。

しかし、誰か一人でもバネとしての性能が悪かったり、共通理解を逸脱する勝手な振る舞いをする者がいると、とたんに全てのバランスが崩れ、まともに走れなくなってしまう事にもなるわけだ。

ま、ちょっと増島風に行こうとして苦しいたとえになってしまったが、何となくジーコが目指しているものがこれで見えてきたように思う。それと同時に問題点も絞られて来たと言える。

それは、ジーコの理想が今の選手レベルとアジア予選まであと2年と言う限られた時間で可能なのかどうかと言うこと。そして、それが理想の実現が無理と判断した場合どういう次善の策をほどこす事が出来るのか、である。

トルシエはスペイン戦以降、ベンツをあきらめてとりあえず不細工でも壊れない車を作り上げた。果たしてジーコは、どんなパーツからでもフェラーリを作れる魔法使いになれるのだろうか。

ジーコ自伝―「神様」と呼ばれて  ジーコ著 朝日新聞社


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