2003年2月23日

・レアルマドリードに見る戦術へのアンチテーゼ

このコラムを書く前には、前に書いたピボーテについての続編にする予定だったのだが、CLのボルシア・ドルトムント戦を見てしまったおかげですっかり書く気を無くしてしまった(笑)。

それはなぜかと言うと、レアルが特別良いサッカーをしたとか強かったとかではなく、レアルがやっていたサッカーが、ことごとく現代のサッカー戦術を無視した、と言うより逆を行っているサッカーであり、それがドルトムント相手に勝ってしまったという事実を目の当たりにしたからだ。

まず、その現代のサッカー戦術におけるコンセプトというか柱を挙げてみる。

  1. DFラインからの組み立てはFWのポストプレイから中盤が拾うのが基本。
  2. ボールを奪ったら出来るだけ素早く攻める。
  3. FWからDFまでの距離がコンパクトである。
  4. 激しく絶え間ないフリーラン。
  5. 前線からの組織的で連動したプレス。
  6. それと連動したフラットで高いディフェンスライン、

そこでレアルの場合である。フォーメーションはこんな感じ。

ラウル

ロナウド ジダン フィーゴ

F.コンセイソン マケレレ

ロベカル パボン エルゲラ サルガド

カジージャス

そもそも、ラウルの1トップ、トップ下がロナウドと言う時点で、既にポストプレイヤーがいない(笑)。いや、多分デルボスケ監督はロナウドにポストをさせて速い攻撃をイメージしていたのかもしれないが、ロナウドがまるで動かなかったために結果的にポストプレイ放棄の遅攻オンリーチームになっていたのだ。

ところが、である。このチームは、ポストプレイなんかが無くても、ジダンを筆頭としてフィーゴ、ロナウドの3人が、まるでボールを手で扱っているかのごときトラップで、クルクルとトライアングルパスで敵陣までボールを運んでいってしまうのだ。そしていったん敵陣まで行ってしまえば、あとは小さなパス交換や足元のドリブルでゆっくりボールをキープしつつ、相手の陣形に開いた穴を狙ってロベルトカルロスやロナウドが勝負したり、正確なミドルシュートを撃ってみたりとやりたい放題をしてしまう。しかも最前列ではラウルがハイエナのように得点を狙っているというわけだ。

このあまりのアホらしさというかお見事さに唖然としつつも、だんだんそこに恐るべき効果がある事に気付いてくる。

まず、レアルは無理に早く攻めなくてもゴール前までは行けてしまうので、誰も一生懸命走る必要が無い。フリーランが無いのでゆっくりしたドリブルや短めのパスしか使えず、結果的にミスが少なくなって守備のために戻る回数が減る。

相手にしてみたら、何とかボールを奪ってカウンターに持ち込みたいところなのだが、前の4人はポジションがあって無いようなものなので、ゾーンで守っていてもスイスイとボールを間に通されるだけでまるでボールが奪えない。結果的にカウンターを始める位置が低くなり、さらにいったんセカンドボールを拾われるとまたホイホイ動かしていってしまうので連続攻撃が出来ず、いちいち自陣に戻ってボールと追っかけっこをしなければならない。

守備陣にとっては、攻撃陣がフィールドのどこでもキープが出来てしまうので、DFラインもどこかのチームのように忙しくオートマティックな上げ下げをする必要が無く、安心してゆっくりとラインを上げていく事が出来る。たとえボールを奪われても、相手のカウンター開始位置が低いので、まずボランチでディレイさせ、DFはかなり早めにラインをブレイクしてボールホルダーを囲むように次々に1対1を仕掛けていっても十分間に合ってしまう。それはまるで、相手の足に投げ絡めて自由を奪う、紐の両側に石をくくりつけたボーラという武器を次々と投げつけていくようなイメージを感じさせる。1対1についての強さがあればその方がかえって一発の危険は少ないし、攻撃陣のボール運搬能力を考えれば無理に高い位置からカウンターを始める必要も無いわけである。

かくして、レアルはいつまでたっても疲労せず、相手のほうがどんどん疲れてパフォーマンスが落ちてしまい、ついには致命的なピンチを招いてしまうのだ。

ドルトムント戦でも、ロナウドが働かないとかグティが入ってからのほうがよっぽど良いサッカーになったと言う意見が多いが、それでもレアルが勝ってしまったのは、ノートップ・ウルトラポゼッションサッカーと言うべきこの戦い方に、ドルトムントが真綿で首を絞められるようにやられてしまったせいではないのだろうか。

ともあれ、この究極のポゼッションサッカーと言うべきレアルのスタイルが、システム・フィジカル・スピード・運動量といった現代サッカーのアンチテーゼとして屹立しているという事実に、サッカーというスポーツの面白さと同時に奥深さを痛感せざるを得ないのである。


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」