2003年11月30日

・2003シーズンJリーグ総括

●J1

J1は、横浜Fマリノスが第1ステージに続いて第2ステージも優勝と、文句の付け所が無い完全優勝を飾った。

その第2ステージ優勝を決めた磐田戦は、前半早々に10人になったものの、堅い守りから個人技とサイドを生かした速いカウンターで、最後はエース久保の粘りで逆転した見事な試合だった。と同時に、これはまた今年のJを象徴するような試合であったと言える。

まず、横浜の特徴である速い展開からのサイド攻撃であるが、同じタイプのFC東京や市原はもちろん、監督がネルシーニョに変わってからの名古屋もこの部分を強化して結果を出してきている。ただ、この戦法を売りにしていた仙台がマルコスの離脱以来沈んだところを見ても、サイドからのクロスを点で合わせられるウェズレイやチェヨンス、久保のような卓越したFWが求められる戦術でもあるわけで、前線の選手の質と量を揃えられるチームでないと難しい。鹿島やFC東京のような2列目以降の得点力に頼るパターンもあるが、やはりFWがいるに越した事は無いだろう。

次にFW。エメルソンがいない時の浦和の成績を筆頭として、柳沢が抜けた鹿島、高原が抜けて中山が怪我をした磐田が勝ちきれなかった点や、シーズン前後半の大久保の出来が成績にはっきり反映されたセレッソを見ても、近年では今シーズンほどFWの重要性が際立った年も無かったように思う。U世代でも得点力のあるFW不足は深刻であり、残念ながら助っ人頼みという傾向はしばらく続くだろう。

そしてメンタルである。オシムに「勝つ事を恐れているようにさえ見える」と言われた市原は、優勝に値する強さを見せながらも結局は勝ちきることが出来なかった。ガンバも相変わらずの恒例行事をやっており、いかに勝負どころできっちりと勝つ事が難しいか、そしてそれをなしえた横浜が真の強さを身につけた事を表している。

最終戦を見ても、確かにひたすらボールをキープしていた磐田のほうが一見格上の余裕であったように見えるが、安全な場所にパスを回す事は安易な逃げでもあり、ボールを失いやすい個人勝負のドリブルやダイレクトパスを試みていた横浜のほうが磐田よりも強いメンタルに支えられていたと言える。同点になったからと言って、一度逃げの気持ちに入ってしまったチームを攻撃的に転換させる事は難しい。終始攻撃意識を忘れなかった横浜が逆転したのは当然の事なのだ。どこかの評論家のようにW杯に戦術を見るのではなく、メンタルに勉強の糧を見出した岡田監督の眼力と手腕に賞賛である。

そして降格した2チームだが、京都は天皇杯に優勝しながらも、パクが抜け、黒部が怪我で調子が上がってこなかった部分をカバーする選手層が無く、それでも同じ戦術に固執したために、結果が悪くなるにつれメンタルまでもが疲弊していった事が降格につながったと言えるだろう。ズルズル行ってしまう流れを支えられるベテランもいなかった。来期は主力が抜けるかもしれないが、田原や町田など良い素材はいるので、メンタルを支えられるベテランを獲得してうまく経験を積んでいけば1年での再昇格は十分可能だろう。もちろんそれは監督次第だが(西村って・・・)。

仙台は、上にも書いたが戦術の柱であるマルコスが抜けた後に、山下や佐藤を生かすような戦術変更をする事がなかなか出来なかった事が、結局傷を深めてしまったように思う。またそれが可能にするだけの選手が中盤にいなかった。ベルデニックをもう少し早く投入していればまた違った結果になったのかもしれないが、守備の構築には定評がある監督なので、来期続投すれば昇格争いの本命になれるのは間違いないだろう。

●J2

結果は今更書くまでも無く、優勝が新潟、2位が広島で以上J1昇格、そして勝ち点1の差で3位になった川崎が涙を飲んだ事になった。この結果だけを見れば、降格組1チームと前年J2上位組という例年どおりのパターンに収まったように見えるが、そこに至る過程が今までと大きく変化しているのが今年の特徴と言えるだろう。

昨年までの昇格組というのは、だいたい2つのパターンに分けられていた。1つは、浦和やセレッソのようにとにかくJ1の戦力を維持したまま、あまり大きなスタイルの変更はせずに選手の質と量で押し切って勝ってきたタイプであり、もう1つは札幌や大分のように、きちんとした守備組織を作り上げてカウンターから外人FWの決定力でしぶとく結果を出してきたチームである。

前者については、第1クールの広島は確かに当てはまったのかもしれないが、結果が出なくなった第2クール以降、戦力が他チームに比べて抜けている状態でありながら、かなり守備的な方向へと方針転換したのが浦和やセレッソとは違うところだと言える。そして後者のタイプに至っては、今年に限れば6位の大宮が最上位にようやく顔を出す有様である。

では、今年新たに出現したJ2で勝つためのチームスタイルとは何だろうか。それはプレスとサイドアタックではないかと思う。

特に、後半戦に絶好調だった川崎を見れば、得点こそ外人選手の決定力に頼っているのは変わらないにしても、そこに至るプロセスとして、高い位置からのプレスで相手を押し込み、セカンドボールを拾ってはサイドからの連続攻撃で、「決定力、さらに倍、そして倍」という形で得点を量産してきたわけである。

新潟や福岡、甲府にしても、川崎ほど強烈なプレス志向では無かったが、コンパクトな守備からのサイド攻撃が徹底されていたという点では同じベクトルに添ったチームだったと言える。つまり、今までは「負けないための戦術」を駆使するチームが上位に来るための条件だったのだが、これからは「勝つための戦術」が徹底できるチームが勝ち残る資格を得る事が出来ると言える訳で、それだけJ2のレベルが上がってきた証拠だと言えるのではないだろうか。

ただ、川崎にしても夏場は調子が悪かったわけで、長いシーズン通してどうかとか、研究された後で安定した結果が出せるのかというエクスキューズはあるものの、このプレス+サイドアタックという形が来期のJ2でも主流になる事が予想され、選手が抜け、監督が交代して1からのチームの作り直しを余儀なくされるJ1降格組は、呑気に構えていると最初から痛い目に遭うという事は覚悟しておくべきだろう。

もう1つ今年のJ2の特徴を挙げるとすれば、下位チームでもお客さんと呼べるチームが少なくなって来た事である。

2002年と2003年の最終順位を比較すると、今年についてはサガン鳥栖が圧倒的最下位に位置してはいるものの、その上の横浜FCの勝ち点は42であり、これは2002年で言えば8位のアビスパに相当する勝ち点である。サガンの分の勝ち点が他に回っているので単純比較は出来ないとは言え、やはりJ2の中での戦力の平均化が顕著なのは確かで、広島が苦労したのも道理であると言えるだろう。

最後に、やはり新潟を始めとしたサポーターについても言及したい。新潟のホームとアウェイの成績だけでなく、甲府の観客数の増加、広島や川崎の終盤での観客の増加というものが、チームの結果に大きな結果を及ぼすようになってきたのはサッカーの裾野拡大と言う観点では喜ばしい事である。人気でえこひいきをするわけじゃないが、営業努力が成績と動員に反映するという事実は、経営学的な視点で見ても望ましい事には変わりないと言えよう。

2005年からはJ1が18チームになる事が予測されており、来期昇格枠は3になるか4になるかは不明だが、監督や選手の大幅な変化が無い限り、おそらくJ1降格組に加えて川崎と福岡がJ1昇格を争う事になるだろう。甲府はチームは完成しているのであとは決定力を何で補うか。大宮はバレー頼みの現状を何とかしないと苦しい。水戸以下はとにもかくにも戦力の充実が必須である。札幌はまずは「チーム」にしないと。

●最後に

新潟の観客数が注目された今年だったが、観客数はトータルでも昨年より1万人近くアップしていて、J1の延長廃止と混戦、J2の底上げが着実に成果に現れてきているといえる。また、今年スタジアムに行って感じる事は、サッカーを分かって楽しんでる客が増えてきたな(関西にいてでさえ!)という事である。W杯で注目を浴びていったんは醒めてしまったように見えるサッカー人気だが、確実に底辺は広がってきているのは喜ばしい限りである。次はJ1の18チーム、年間1ステージ制に期待である。もっとも、Jだけじゃなくて代表との好連鎖がまだまだ必要なのだが・・・


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」