2003年3月28日

・戦術の時代を迎えるJリーグ

2003年シーズンのJリーグがスタートした。TVで生で見れる範囲の試合をいくつか見ていて興味深く思った事がある。それは、2試合続けて大勝したアルビレックス新潟や、調子が悪いとはいえジュビロを叩きのめした横浜Fマリノス、そして未完成ではあるけども明確なスタイルを見せようとしていた清水エスパルスのように、コンパクトな布陣で高い位置でボールを奪い、中盤を速くシンプルにボールを回してウイングやサイドハーフが飛び出すといった、いわゆる現代的なコレクティブカウンターを指向するチームの出現である。

ただ、今までもこういうチームは無いわけじゃなかった。そこをあえて出現と書いたのには理由がある。ここでざっとJのチームについて見てみよう。

昨シーズン両ステージ制覇を果たした磐田の場合、どちらかというとポゼッション指向で、レアルマドリードのように選手お互いのコンビネーションでパスコースを作り、その間にパスを通して崩していくタイプと言える。守備についてもラインを作ってというタイプではなく、個人個人の高い守備意識がプレスにつながっているタイプと言えるだろう。

その磐田の対抗馬であった鹿島については、今シーズンこそ3ボランチで高いラインを意識したチーム作りをしているが、昨シーズンまでは深めの守備位置で、秋田がボールを跳ね返してから小笠原や中田コにつなぎ、そこから柳沢を走らせたりサイドバックの上がりを使うと言った、ややオールドスタイルのカウンターチームであった。

そして選手の質では上記2チームに引けを取らないであろう横浜Fマリノスと清水は、両方ともパスは回すけれどもシュートまでが遅いのが目立っていたし、浦和に至ってはマンマーク+3トップ頼みに過ぎず、それぞれとても現代戦術と呼べるものではない。

京都とFC東京はかなり現代的な戦術を意識したチームだが、選手層やチームの熟成度という点で優勝争いにからむまでは行っていない。そういう意味ではJ2の甲府や水戸も同じで、両チームとも非常に組織的なプレスを実現して健闘したチームではあったのだが、どこも昇格争いに加わるまでには行っていない。昇格を果たした2チームを見ても、無戦術と言ってもいいセレッソと、守備は組織的で堅かったけれども得点はそれほど多くなかった(J2で4位)大分である。

つまり、日本ではコレクティブカウンター指向というのは、どちらかと言うと(今は強いが)キエーボのような弱者の戦術だったわけで、決してメインストリームと言える存在では無かったのである。しかし、今や欧州ではアーセナルやバレンシアのように、良い選手を揃えた上で、高い位置でボールを奪ってからの質の高いカウンターでチャンスを量産するチームがビッグクラブの一大勢力になっている。

4-2-3-1と呪文をひたすら唱えつづけているサッカーライターがいたり、4年間フラット3というお題目でマスコミが飯を食いつづけられたり、未だに4バック3バック論争がファンの間でも絶えない、異様なまでに戦術(的な話)に関心があるこの日本で、こういった「コレクティブカウンターを駆使する強いチーム」がほとんど無かった(と言い切ると語弊があるので「選手の質が高いチームほど戦術的でなかった」と言うべきであろうか)のは非常に不思議である。

考えられる理由としては、蒸し暑い日本の気候がハイペースな試合を続けにくくしているというのもあるのだろうが、特にJ2などを見ていると、高い位置でボールを奪いはするのだが、そこから早くつなごうとしても判断の遅れや技術的な凡ミスでカウンターチャンスをみすみすフイにしてしまったり、良いつなぎからサイドが抜け出す場面があったとしても最後の詰めの精度が悪くて点にならず、結局は助っ人外国人FWの決定力頼みになってケガや調子を落とすと攻撃力もガタ落ちしてしまうといった、選手の質の問題で「攻撃的」と呼べるほどの攻撃力を見せることが出来なかったという点が大きいのではないだろうか。つまり、戦術的ではあるけどもどちらかというと守備を固めたカウンターと呼べる代物でしか無かったのである。

また良い選手をかかえていたJ1でも、もはや欧州では絶滅寸前の、いわゆるパッサーをトップ下に置く布陣の採用、フラットディフェンスに対する指導者の習熟不足、組織攻撃があまり好きではないブラジル人選手の多さが、戦術的なチーム作りの邪魔になっていたのではないだろうか。もしかするとトルシエアレルギーもあったのかもしれないが(笑)。

しかし、W杯におけるスウェーデンやデンマーク、アイルランドなどのこの戦法を取るチームの活躍や、京都の天皇杯優勝、W杯を境にした技術の高い柔軟性のある世代への交代、そしてフットボールカンファレンスやスカパーの放送などの情報源の増加、野心があってアグレッシブな若い監督の台頭などがきっかけになって、遅い攻撃が特徴だったJの世界にもようやく変化がやって来たと言えるように思う。

これは、今まで判断のスピードや攻守の切り替えの速さにとまどう事が多かった海外移籍選手に対しての助けにもなるだろうし、勝負の観点から見ても、良い選手がコンビネーションを既に確立させたチームに対し、同じような戦術、同じようなスピードのチームで戦ったところでなかなか勝てないわけで、それを戦術で上回って勝つというチームが出てきてこそリーグが活性化し、互いが切磋琢磨し合う事でまたレベルアップにつながるのである。だいたい、いつまでも優勝が磐田と鹿島では面白くないではないか。

皆さんも、今年はそういう観点から試合を観戦してみてはどうだろうか。


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」