最近、レッジーナでは中村がボランチとして定着しつつあるが、やはりこれは最近のセリエAのトレンド(・・・嫌な言葉だな)である、「守備的2人+パッサー1人の中盤」という戦術に幸運にも乗っかった事が大きいように思う。これがプレミアの4-4-2やスペインの4-2-3-1だと、中盤はもっと守備力が求められてしまうので厳しいところだった。
何の週刊誌の連載だったかは忘れてしまったけど、はちうだ氏のコラムで「ピボーテ(ピボット:日本語だと軸)」という、パッサータイプのボランチのスペインでの呼び名を紹介していて、スペインでは子供たちのあこがれだとか何とか書いていたが、このバルセロナのグアルディオラやチャビに代表される役割が、セリエでも必要とされるようになってきたのは面白い。
この役割は、特に今期のミランにおけるピルロの成功で一気に注目された印象があるが、イタリアでのきっかけとしては、コスミ監督が2000年シーズンからペルージャでやった、3ボランチの真ん中にリヴェラーニを置いて、両脇をテデスコ、バイオッコといった、パスセンスはあまり無いけれど守備が良くて運動量が豊富な汗かきタイプの選手を使ったフォーメーションではないだろうか。
これにより、今までは潰し役だけのダブルボランチが多かったために、FWとDFとのつなぎがうまくいかずにポッカリサッカーになりがちだったセリエAのサッカーの質を変える事に成功したのだ。もちろん、リヴェラーニがいなくなった今期もオボド、ブラージといった選手でうまくカバーしている。
最近はキエーボの戦術と躍進ばかりにスポットライトが当たっていたような印象があるが、このペルージャが取った方法も他のチームにとってかなりのヒントを与えたのではないかと思っている。
実際、今期ではミランほど極端では無いにせよ、パルマではラムーシが3ボランチの中ではピボーテ役として使われていたり、ユーベでもカモラネージとダービッツにはさまれたタッキナルディがその役割を果たしていて、両者とも攻撃センスはあるものの守備力には不安定な面があったので、チーム力アップに加えて人材を生かすと言う面でもうまくいったように見える。その他にも、グアルディオラが入ったブレシアはもちろん、3バックチームのほとんどがペルージャ式3-5-2になってしまい、もはや伝統的な3-4-1-2はローマだけと言えるほどになってしまった。
さらに、3ボランチの採用は別の効果もセリエにもたらしたという点も見逃せない。この戦術では中盤がトップ下やサイドも兼ねる役割であるため、ゾーンをコンパクトにしないと前線が完全に孤立してしまうため、必然的に攻撃的(この言い方もあまり好きじゃないが)にならざるを得なくなるのだ。それが結果的に、CLでのイタリア勢の好調さや、今期のセリエAの得点の多さにつながっているように見える。若干スペイン色が入ってイタリアらしさと言う点ではやや色が薄まった面はあるが、欧州カップ戦で強くなったのは歓迎すべき事だろう。
ちなみに、ローマは今期の開幕前に3-5-2にしてグアルディオラを使い、レアルマドリード100周年記念イベントでの試合でなかなか良い試合を見せて、これは今期のローマは強いぞと思ったのだが、カペッロの好みに合わなかったのかどうしてもトッティをトップ下にしたかったのか、何故かその後は使われずに終わってしまった。その後の低迷はご存知のとおりである。誰かのようにフォーメーションだけが不調の原因であるとは全く言うつもりは無いが、攻撃センスのあるエメルソンが守備に忙殺されている今の戦術は非常にもったいないように思えるのも確かだ。
また、日本代表で考えても3ボランチの4-3-3はかなり有用なプランであると思う。ご存知のように、今の4-2-2-2で「黄金の中盤」をフルに使おうとするとどうしてもボランチの位置の守備力に不安が出てきてしまうが、3ボランチだと戸田を入れてDHとして使うことが可能になる。しかも、中村と小野、そして中田はボランチでもサイドでも働ける選手であり、現在の3ボランチに要求される能力は十分ある。ただ、中村と小野については守備力と運動量が少し弱いのは確かだが、あと2、3年揉まれればかなり改善されるはずである(と思いたい)。まだ1トップが出来る人材が高原を含めてもいないのが問題だが、将来的には検討されてしかるべき方法であろう。
ちょっと話が脱線したが、今は好調に見えるこの「ピボーテ戦術」も、ミランに対するピルロつぶしのように各チームとも対策を立てつつあり、今は比較的落ち着いたように見えるレッジーナでの中村の役割も含めて、今後の推移を見守っていきたいところである。
早速ですが、標記のコラム面白かったです。
このあたりの最近のイタリアの戦術の傾向は私が現在、最も興味がある部分なのでツイツイ反応してしまいました(笑)
>これにより、今までは潰し役だけのダブルボランチが多かったために、FWとDFとのつなぎがうまくいかずにポッカリサッカーになりがちだったセリエAのサッカーの質を変える事に成功したのだ。
そうですね。
例えば、数年前までセリエAで主流だった3−4−1−2のトップ下はFW的要素が強く求められますから、そこにトッティのような選手が入ってしまうとどうしても3トップ気味になってしまい中盤と前線が遊離してしまう傾向がありましたね。
ただし、同じ3−4−1−2でも日本代表のようにDFラインを押し上げ、トップ下にMF的要素の強い中田などが入ると中盤に5人の選手がいることになり、逆に中盤が厚くなることは興味深いところです。
やはりこのシステムではトップ下からの守備がないと(ほんとはFWからの守備ですが・笑)十分なプレスがかからず、ラインを上げることが難しいんですね。
セリエAの一般的な3−4−1−2のように前線の守備を免除してしまうとどうしても間延びしたサッカーになってしまうのかもしれません。
トルシエとしても、ポーランド戦で見せた中田が守備ではボランチ、攻撃ではトップ下として働くような形が理想だったのでしょうが、小野と中田のコンディション不足と、ロシア戦以降のラインの低さにより、中田があまり守備で(ポーランド戦ほど)効かなくなった例を見ると、3-5-2では中盤をコスミのようにトップ下のスペースを空けた逆三角形にしないと、3-4-1-2になりやすくなってコンパクト化が難しくなるのかもしれません。
このポジションの難しさですね。
>3バックチームのほとんどがペルージャ式3-5-2になってしまい、もはや伝統的な3-4-1-2はローマだけと言えるほどになってしまった。
もっと言えば、強豪チームで3バックなのはローマだけになってしまいました。
数年前まで3バックが主流のセリエAでしたが、現在全18チームで3バックと4バックの割合は9対9で五分五分になっています。(はっきりしない記憶なので、間違っているかもしれませんが)
90年代半までサッキの影響で中盤がフラットな4−4−2が主流でしたが、その影響でゾーラやバッジョの居場所はなくなりました。
そういったファンタジスタを生かせないことによるファンの不満もあり発生したものが3−4−1−2で、こう言った発生経緯からもイタリアでのトップ下_つまりファンタジスタは色々な意味で特別なポジションといえます。(ただし、セリエAのこのポジションは前記のようにFW的な選手が求められ、MF的なファンタジスタはどのみち居場所を見つけ出すことが困難でした。)
こういった3バックが生まれた背景には、「3バックの弱点であるサイドでの数的不利がイタリアのサイドバックの攻撃意識の低さから生まれにくい」と言う状況もありました。
しかし、ヨーロッパレヴェルでは当然そんなことはなく、イタリア勢の不振はその影響(間延びした3バックで戦ってしまったこと)も少なからずあったでしょう。
それが、最近ではイタリア国内でも3バックのサイドをつかれ始め、強豪チームはファンタジスタを置けるメリットよりもゾーンをバランス良くカバーできる4バックのメリットを上に見ました。
現在、イタリアで3バックを採用しているチームは、日本代表のように強力なCBがいないために採用している中小チームがほとんどです。かつてのように、ファンタジスタを置くため_というのはそれこそローマくらいでしょう。(1トップですが、ボローニャのロカテッリもそうかも)
まあローマはサムエル以外のCBがへなちょこというビッグクラブとしては珍しい明確な欠点をかかえたチームですからね(笑)。そこを中盤の強力な守備とカフーの上がりでカバーする戦術なので、中盤に故障者が出てカフーの調子が落ちたらバランスが崩れたのも当然の事だったのでしょう。4バックが出来るだけのCBがいればペップの居場所も生まれたのかもしれません。
>さらに、3ボランチの採用は別の効果もセリエにもたらしたという点も見逃せない。この戦術では中盤がトップ下やサイドも兼ねる役割であるため、ゾーンをコンパクトにしないと前線が完全に孤立してしまうため、必然的に攻撃的にならざるを得なくなるのだ。それが結果的に、CLでのイタリア勢の好調さや、今期のセリエAの得点の多さにつながっているように見える。
確かに、イタリア型3−4−1−2は、前線の守備の不足からコンパクトにすることは容易ではないです。
しかし、3バック、3ボランチの中小チームは単にCBがいないから3バックにし、ファンタジスタがいないから3ボランチにしている印象はどうしてもぬぐえません。また、そのようなチームはFWからの守備もありますし、戦術の徹底さえあればコンパクトにすることも不可能ではありません。(わがままなFWやファンタジスタもいないし・笑)
それよりも、私はミランのように4バックで3ボランチ。そして、ボランチにピルロを入れたアンチェロッティにこそ自覚的なものを感じます。
かつてFW的ファンタジスタを生かすために3−4−1−2が採用されたように、今度はMF的ファンタジスタを生かすためにピボーテが生まれたのではないかと。
もう一つは、2ボランチだとトップ下に対するマークがあまりにも強くなって、ジダンがスペインに逃げたように(笑)、従来の繊細なボールキープが特徴のファンタジスタにとっては死んだポジションになってしまったのもあるんでしょう。トッティはワンタッチでボールを離すことに長けていてあまりキープはしないですからね。
つまり、ルイコスタのようなMF的ファンタジスタをトップ下に置きつづけるためにも、攻守でトップ下をフォローできる3ボランチが必然だったのではないでしょうか。さらに、トップ下のファンタジスタによりボールポゼッションが向上したために、ボランチにもピボーテを置ける余裕が生まれたと。
>今は好調に見えるこの「ピボーテ戦術」も、ミランに対するピルロつぶしのように各チームとも対策を立てつつあり、今は比較的落ち着いたように見えるレッジーナでの中村の役割も含めて、今後の推移を見守っていきたいところである。
なにはともあれ、そうですね。
最近はピルロやルイ・コスタもお疲れ気味だし、コモのようにピルロにはっきりマンマークをつけてくるチームも現れましたからね。
今までは比較的マークの盲点になっていたけど、ピルロからのボールの経由の多さは一目瞭然ですからね、これからはそういうチームも増えるでしょう。私も今後の推移を楽しみにしたいと思います。
ちょっと電波を発信してしまいましたが、それではまた(笑)
こちらこそ、どうも楽しいご意見ありがとうございました。