2004年11月2日

・アーセナル対サウザンプトン戦@ハイバリー観戦記

せっかくイングランドに行くのだからと思った私は、今回の仕事先に対して、「アーセナルの試合を見たい」と公私混同&無理難題の極みでアーセナル対サウザンプトン戦のチケットをゲット(笑)。担当者の「ぎりぎりまでチケットが手に入らなくて心配だったよ」とのぼやきもどこ吹く風で、普段の数倍の勢いで働いて金曜日までに仕事を終わらせ、土曜日は万難を排して試合観戦に臨む事に。

試合は3時からの開始だったが、周辺のパブなどの雰囲気も見たかったので、チャイナタウンで昼ご飯を済ませてすぐに地下鉄のPiccadilly線にいそいそと乗り込む。ただ、スタジアムに最も近いArsenal駅周辺には何も無いという話らしいので、オフィシャルショップのある一駅先のFinsbuly Park駅で降りる事にした。

駅を降りると、いきなりアーセナルショップがどーんと現れ、そこにはユニフォームを着たサポーターが群がっていていたり、サウザンプトン戦のマッチデイプログラムを売る小さな屋台がいくつもあったりして既に試合のムードは満点の状態。ここで私も屋台のおっさんからプログラムを購入。ただし、アーセナルグッズはショップの行列にめげて断念。

Finsbuly Park駅周辺はいたって普通のロンドン郊外という感じで、コンビニや銀行、ファストフード店、そしてパブが建ち並んでいる。ただ他の町と違うところは、そのパブの周りにビールを持ったサポーターが溢れ返っているところだ。そのパブの中で、見た感じで最も雰囲気が熱そうなTwelve Pinsというところに潜入してみる。

当然店内には、顔にも腹にも気合が入った強面がぎっしり詰まっているのだが、店のしつらえ自体はいくつかのテレビが天井につるされているようなイギリスのどこにでもある普通のパブで、他にそういう店があるのかもしれないけれど、地元だからといって特別にアーセナルグッズやサインが飾られているわけではないのが面白いところだ。

小一時間ほどパブでビールを飲んでサポーターを観察し、その後スタジアムに向かったのだが、噂どおりハイバリーは普通の住宅地の中に埋もれているところで、メインスタジアムこそ道路に面してはいるのだが、他の3面はスタンドの裏がすぐ住宅になっていて、それぞれのスタンドへの入口は住宅の切れ目に突然現れるので非常に分かりにくい。最初にハイバリーを訪れる人は絶対に一度は入口を間違えるに違いない。って私が間違えたから言うのだが(笑)。ただ、こんな所だと窓や車に何をされるか分からないのか、スタジアムに隣接する住宅には鉄策が張り巡らされており、人が住んでいる気配はあまり無かった。

入口をしっかりと確認した後は、とりあえずのお約束でグッズの屋台やハンバーガー屋台が建ち並ぶスタジアムの周りを一周、いや正確にはスタジアムの外側の住宅道路を一周して、何にしようか迷った挙句にアーセナルのキャップを購入、そしてWest Standの1階席入口からいよいよハイバリーに入場。

ここがサッカーファンなら誰でもあこがれるハイバリーか・・・と一瞬夢心地になったのもつかの間、そのボロさに唖然とする(笑)。鉄格子状の入口を抜けてすぐのスタンド裏は、コンクリを白くペンキで塗った殺風景な柱や壁に囲まれ、バドワイザーのビールや軽食の売店、過去の映像などを流す液晶テレビが何台かある以外は、ここが万博競技場だと言われても何ら不思議ではない有様。各スタンドも小ぢんまりとしていて、一見とても4万人も収容できるとは思えない様子である。

自分の席は、前から68列目と1階席のかなり奥のほうで、階段状になった天井、つまり2階席の床が前にせり出していてようやくピッチの高さの分だけが見える状況で、まるで横長になったテレビを見ているようである。ただ、ピッチから1mも離れていない最前列に立つとさすがに臨場感が凄く、奥の席とは全く雰囲気が違っていたのが少し悔しかった。まあ試合が生で見られるだけラッキーであって、文句を言うのは贅沢だと重々分かってはいるんだけど。

試合の30分前から練習が始まったのだが、この時点でスタンドは贔屓目に見てもまだ3割程度の入りに過ぎず、選手の練習自体もじゃれあいながらのパス回しが主で、イングランドではあまり試合前のピッチでの練習は客にも選手にも重要視されていないようである。サブの選手たちは互いにリフティングしあって遊んでいるのだが、ヒールや空中フェイントなどでボールを落とさずにつなぐ超絶技巧を平然と駆使していて唖然とする。こんな芸を見ないとは何ともったいないと思う事しきり。

そして場内のディスプレイで先発メンバーが発表される。GKレーマン、DFがコール、シガン、トゥレ、ローレン、MFがレジェス、ヴィエラ、エドゥ、リュングベリ、そしてFWがアンリとベルカンプ。アンリは当然だがレジェスへの拍手も多く、街中でレジェスの9番のユニを着ている人が多かったのを見ても、彼はアーセナルのアイドルとなっているようだ。不思議とサウザンプトン選手へのブーイングは無かった。

15分前からようやくスタンドもどんどん埋まり始め、試合開始直前には不思議とぴったり満員に。この辺の観戦馴れ度合いはさすがだ。ただ、場所がバックスタンドのせいか周りの客は結構品が良さそうな家族連れや若者が多く、パブでたくさん見かけた強面労働者風の人たちが少なかったのが意外だった。チケット代が一番安いゴール裏でも28ポンド、約5600円と高いので、もしかすると皆パブで楽しんでいるのかもしれない。と言ってもこの試合はテレビ中継は無いらしいのだが、そういう時はいったいどうしているんだろう。

そうこうするうちに試合が始まる。開始直後こそサウザンプトンが攻め込みはしたのだが、すぐにアーセナルがボールを支配する。左サイドのアンリとレジェスのコンビで度々サウザンプトンのサイドをえぐるのだが、もう一つ中とタイミングが合わずに得点できない。逆に、20分にカウンターからポストに当たるシュートを打たれ、アーセナルにとっては肝を冷やす展開。アーセナルはヴィエラが素晴らしいキープ力を見せてはいるのだが、エドゥとリュングベリが精彩を欠いて攻撃が途切れる場面が目立つ。

しかし28分に、ベルカンプが得意の変態トラップからPA内でDFを交わしたところを倒されてPKゲット。が、これをアンリがポストに当ててしまって得点ならず。そこからしばらくは、アーセナルがペースを握ってサウザンプトンを攻め立てるのだが、序盤こそ動きが目立ったレジェスが消え、攻撃が中に偏ってしまってサウザンプトンの堅い守備にことごとく跳ね返される。

しかも35分を過ぎると、得点できない焦りかGKやDFがパスミスを連発し、サウザンプトンに度々決定的なチャンスを与えてしまう。が、何とかレーマンやDF陣が最後で踏ん張って耐え、両チームスコアレスのまま前半は終了する。

後半になると俄然サウザンプトンが乗ってきて、全く衰えないプレスディフェンスから10番のマッキャンがアーセナル陣内に鋭く切れ込む場面が多くなる。攻撃の糸口がほとんどつかめなくなったアーセナルは、16分に怪我のレジェスに代えてピレス、そしてエドゥに代えてファブレガスを投入。

そして23分、カウンターの場面からベルカンプが中央でボールをキープ、そこからふわっとした浮き球のパスを相手DFの裏に走りこんだアンリに送り、これをアンリが落ち着いたトラップからゴール右側に決め、ようやくアーセナルが先制点を挙げる。ここまでほとんど仕事らしい仕事をしていなかったアンリだが、決めるべき時に決められるのはさすがとしか言いようが無い。これで今まで比較的おとなしかったサポーターもヒートアップ。

そこからは完全にアーセナルのペースとなり、攻めに出たサウザンプトンの裏をファブレガスがパスで崩し、ピレスやリュングベリが試合を決める絶好のチャンスをもらったのだがシュートをGKニエミにことごとく阻まれてしまう。こうなるとサッカーではいつも逆の結果が出てしまうもので、35分と40分にそれぞれCKとFKからサウザンプトンのデラップに全く同じようにフリーでのヘディングを決められてしまう。デラップはクロックエンドの一部に陣取ったサウザンプトンサポーターと抱き合って大喜び。

これでスタンドの空気は一変、私の席の周りからは四文字言葉が連発され始め、もう試合をあきらめたのか出口へと向かう人も出てくる始末で、あたりには殺伐とした空気が漂い、ちょっと帰り道の安全が心配になって来る(笑)。

それを救ったのが41分から投入された元フェイエノールトのファンペルシ。後半もロスタイムになって、右サイドに展開されたボールを縦に受けたファンペルシが、切り返しのフェイントでDFを交わしてゴール左隅に起死回生の同点ゴール! もちろんサポーターは総立ち、そして「Check it!」の大合唱。そのまま試合は終了し、アーセナルはホームで連敗という恥辱をかろうじて逃れ、サポーターや監督、選手にとっては(私にとっても)安堵で終わった試合だった。

試合後は選手の挨拶も無くて客もさっさと外に出てしまい、外のパブでも結果が引き分けのせいかあまり気炎を上げている人はおらず、5時から行われていたブラックバーン対リバプールのゴールシーンに歓声を上げる人は数人いても、基本的に皆割と静かに談笑していたのが印象的だった。

今回、はじめてイングランドのサッカーを生観戦したわけだが、ハイバリーの収容人数が4万人程度と言うこともあってか想像よりもずっと牧歌的で、確かに試合前後のパブやピッチが近いスタジアムの臨場感、そして得点シーンの盛り上がりやチャントは独特のものがあったのだが、Jリーグのスタジアムでの雰囲気もそれほどサッカーの母国に負けていないんじゃないかという感慨を改めて認識する事が出来たのは存外な収穫だった。

確かに試合内容ではJはプレミアに一歩も二歩も負けてはいるが、浦和や新潟を筆頭とするサポーターの盛り上がりがあれば、そう遠くない将来に、Jリーグも欧州にそれほど負けないレベルのリーグになるはずだと思う。それまで、日本のサッカーを精一杯応援しようと改めて思った次第である。でも、今度はイタリアで試合を見てみたいなあ・・・


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」