2004年3月23日

・アテネ五輪選考メンバー私見

山本監督率いるU-23日本代表も、ダッチロールをしながらも何とかかんとかアテネ五輪への出場権を獲得し、早速気の早いネット界隈ではオーバーエイジ枠の適用について、高原だ小野だ中田だと喧喧囂囂の議論が始まっている。しかし、まずチームコンセプトはどうなのかという観点から見ていかないと、どこかのA代表のように「黄金に輝く」絵に描いた餅となりかねない。と言うか、ワールドユース組が合流する前の山本ジャパンが既にそうだったのだから笑えない。

まず、2003年の4月に行われたコスタリカ戦のメンバー(PDF)を見てみよう。スタメンから先日の最終予選のメンバーに残ったのはわずか7人であり、結果的に出場しなかった青木を外してUAEラウンドに限ってしまうと、何と林と松井と石川しか残っていない。いかに山本ジャパンがチーム作りの過程で迷走していたかがメンバーだけを見てもはっきりと分かってしまう。これでよく最終予選に間に合ったものだ。

コンセプトの話に戻そう。このコスタリカ戦で特徴的なのは根本と石川と言う両サイドと、リベロの青木とボランチの阿部と森崎和というパッサーを後ろに3人並べた布陣で、この時点で山本監督はボールポゼッションを高めてボランチの展開パスやDFからのフィードからサイドを崩して点を取るというサッカーを目指していた事が良く分かる。しかし根本にしても石川にしてもピンポイントクロッサーでは無いし、中山はゴンでは無い。そして後ろのパッサー連中はカバーは出来てもアタックは苦手なタイプなので、結果的に中盤が間延びして攻撃が遅くなるわサイドは上がれないわの八方ふさがりとなり、チームプランは崩壊した。

そしてスコアレスドローに終わった最終予選初戦のバーレーン戦のメンバー。サイドは突破型ではない森崎浩と徳永、後ろにパッサーは闘莉王のみと完全にプレス偏重の布陣である。これはご存知のように、平山が前で起点を作って闘莉王が押し上げ、結果的に相手を押し込むところまでは形に出来たものの、サイドから攻められずセットプレイも機能せずに引いた相手を崩す事が出来なかった。

最後にアテネ出場を勝ち取る快勝を見せたUAEとの最終戦。トップ下という決まったポジションを置かずに、平山の高さを起点にしてサイドを田中や大久保といったスピードのあるFWが崩すといった流動性がうまく機能し、中盤の真ん中はプレス重視で組み立ては左の森崎が担い、セットプレイも阿部の復帰によって得点につながった試合だった。

以前にもコラムで書いた事だが、山本監督はトルシエの戦術をベースにして、トルシエチームの弱点であったサイド攻撃とポゼッション能力の弱さからトルコを崩せなかった反省を生かし、よりレベルを上げたチーム作りを目指したものの選手と世界のレベルを読み間違え、結果的にワールドユース組の加入によってかろうじてトルシエのレベルまで持ち直したように思う。

ただ、トルシエのチームと違うところは、前線にスピードのあるテクニシャンがいる事と中盤のパスやゲームメイク能力が落ちる事、DFがラインコントロールよりもフォアチェックで守っている事である。そう考えると、まずしっかりと前線に起点を作ってちびっこテクニシャンを生かせるポストプレイヤー、そしてゲームメイク能力の高い選手、対人に強いDFというところが補強ポイントになる。

まずポストプレイヤーであるが、アジア予選では平山が高さと言う部分で貢献はしていたものの、体調悪化もあったのだろうが足もとにしっかり収める働きとしては正直物足らなかった。高松はUAEラウンドで活躍したとは言え、それはストライカーとしてリズムを変えた働きであり、ポストプレイではバーレーン程度に完封されたのを見ると一層相手の守備が厳しくなる本選では相当厳しいだろう。従って、平山のスタミナ面も考えると、コンディションや相手の特性によって2人のポストマンを使い分けたいところである。とは言え、U-23世代はもちろん、代表レベルでもポストが出来るろくな人材がいないのが悩みどころ。候補としては黒部、高原、鈴木隆行あたりのどんぐりの背比べだろうか。

次にゲームメイカーを考える。左サイドが出来る人材が森崎だけと言う事もあるので、そこを視野に入れた補強が必要だ。理想を言えば、小野や中田になるのかもしれないが、彼らの格を考えた場合、サイドよりも中央で使いたくなってしまうのでサイドの問題の解決につながらない。従って、クラブでも比較的サイドで働く事の多い小笠原をファーストチョイスに、もしくはゲームメイカー役を右にして阿部をサイドにコンバート、そして左に村井や三都主、新井場を起用する手で行くのもいいかもしれない。どちらにせよ、中盤の構成はまだまだ考える余地が大きそうだ。

最後にDFだが、今の那須や闘莉王、茂庭、徳永とA代表クラスでは、経験を別にするとそれほど対人能力が違っているわけではない。闘莉王と阿部が山本ジャパンにとって欠かせない人材である以上、OAを入れるよりも阿部をセンターにして両サイドCBを闘莉王や茂庭や那須で行くと言うテストをして欲しい。となると、もう一人のOAはGKとなる。林はフィードは良いものの安定感に乏しく、コーチングの面でも不安がある。ここは楢崎や曽ヶ端の出番だろう。

ここまでで挙げられたメンバーは、FW平山、大久保、田中、(OA)、MF今野、鈴木、阿部、森崎、徳永、(OA)、DF闘莉王、那須、茂庭、GK林、(OA)の15人。あとはサブの面子である。まず石川は攻撃の切り札として絶対に必要。残る2人をどうするか。バランスを考えればユーティリティな守備選手が一人は欲しいので菊地、そしてトップ下を置く布陣も用意するのであれば松井や進境著しい長谷部あたりが候補か。

FIFAのアテネ五輪のレギュレーション(PDF)によると、メンバーの最終登録はあと4ヶ月も先の7月21日である。その運命の日までは、強化合宿のメンバー発表や練習試合での出来、Jの試合での活躍が伝えられる度にあちこちで議論が巻き起こるのだろう。旅は出発する前が一番楽しいのだとは良く言われる話だが、それも予選を突破したからこそである。選手や監督は大変だろうが、我々は4ヶ月をご褒美と思ってゆっくりじっくり楽しもうではないか。


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」