2003年6月3日

・02/03シーズン海外組通信簿 イタリア・オランダ・ポルトガル編

※点数は5点満点

中田/パルマ(イタリア) 3.5

昨シーズンのさんざんな状態から監督が変わって1年目という難しいシーズンで、右ウイングという定位置をものにし、チーム成績も残留争いからUEFAカップ出場権を得るまでにアップしたのはまずまずの成果だと言える。しかし、チーム状況的にアドリアーノとムトゥという得点力のある自己中選手を優遇するあまり、中田が攻撃の歯車として活躍する場面はボナッツォーリが抜けてからはほとんど無く、ボールの無いところでひたすら右サイドを上下するだけと言う役割になってしまい、最後はかなりフラストレーションの溜まる状態に落ち込んでしまった。

ヒデメールにも何度か書いてあるが、彼の望みはただひたすら「自由に攻撃したい」事にある。しかし、彼にはムトゥやアドリアーノのようなマークを無力化する個人技が無いので、中田がマークを外した一瞬を捉えてパスを出す、ディフェンスに寄せられる前にパスを出せるように動き出すといったチーム全体の協力が必要になる。それはすなわち中田がチームの王様とならなければならない事を意味する。

日本のチームであれば、監督が「このチームの中心は中田だ」と言えば皆が一致団結して協力してくれるのだろうが、欧州では他のチームメイトに対して自分が王様となるべき人材なのだと実力で証明しなければならない。

実際、ペルージャではユーベ戦での2ゴールなどの結果で証明したからこそ中心になれたわけであって、パルマではムトゥが王様となるべき能力を持ち、ムトゥサッカーで結果を出しているのだから、監督としては中田の言い分を聞いてわざわざチームを作り変えるようなリスクは犯さないのが当たり前である。「自由」は与えられるものではなくて自分で勝ち取るものなのだ。

来期の移籍先としてプレミアのトップチームやバイエルンのクラブが候補に挙がっているそうだ。確かに、イタリアと比べればどちらも戦術的な縛りが少ないリーグだが、自由を勝ち取るためのハードルの高さはCLやUEFAに出るようなクラブであればどこも同じようなものである。

たとえ出場機会は無くても自由な攻撃と言う自分のポリシーを優先するのか、より高い舞台を目指して自分を変えていくのか。これからのサッカー選手としての円熟期をどういう形で迎えるか、彼の選択に注目である。

 

中村/レッジーナ(イタリア) 3.5

ただでさえ難しい海外移籍において、フィジカル的に厳しいと思われたセリエAで下位チームとは言え1年目である程度実力を世間に認められた事は喜ばしい結果である。

しかし中村本人の出来を冷静に評価した場合、グランド状態の悪い試合や残留争いのようなフィジカル勝負の厳しい試合、アウェイや終盤リードした状況ではさっぱり出番が無くなってしまうようでは、まだまだどこのクラブに行っても大丈夫な選手になったとは言えないだろう。シビアに考えれば、テクニックに乏しい選手ばかりのレッジーナだからこそ使ってもらえただけとも言える。

課題ははっきりしている。守備面においては、90分走り回って相手に詰めるという事はできても、そこでボールを奪ったり競り合うだけの力とスキルが無く、ヘディングもポジショニングが悪くて競るまでにも行けていない。とうていボランチの域に達しておらず、せいぜい良く走るトップ下程度のレベルである。

攻撃面では、前を向いた状態で足元にボールをもらって決定的なパスを出す事だけを考えていて、後ろからのボールをもらおうとするような動きがほとんど無い。相手を足元で交わすテクニックを持っているのにもかからわず、それをゴールから遠い地点かサイドでしか使おうとしない。バッジョやルイコスタのようなプレイが出来るだけの才能があるのに生かせていないのはもったいないと言わざるを得ない。

移籍の噂もあるらしいが、スペインならはオフザボールの動きとボールのもらい方はより高いレベルで求められるようになるし、イタリアやプレミアならフィジカルや競り合いでのスキルが上がらなければとうてい上のレベルのクラブではやっていけないだろう。レッジーナにおいてすら、トップ下の座はコッツァに奪われ、モザルトがチームにフィットしてきた終盤の戦いを見れば、来期のレギュラーすら確定とはいえないだろう。

来期は変に他国リーグに移籍などと言う色気を出さずに、ボランチならば徹底的にフィジカルを鍛え、トップ下ならばビデオからでも何でもルイコスタやバッジョのボールの無いところでの動きやボールのもらい方をマスターして、まずはチームメイトとの競争に勝つ事を考えるべきだ。移籍を考えるのはそれからで十分である。

 

小野/フェイエノールト(オランダ) 3

フェイエノールトでのレギュラーCMFの座をがっちりキープし続けたのは立派だが、シーズン前半は7得点を決めるなど好調さを見せていたにもかからわず、後半は体調不良と怪我で出場機会が減ってしまい、チームもCLを予備戦から出場した疲労やトマソンの抜けた穴を埋めるためのメンバーの試行錯誤などでシーズン前半戦の試合を取りこぼし、来期はUEFAカップ出場権を獲得するだけというさえないシーズンになってしまった。

また、メンバーが確定する段階において、パスワークを好む左サイドのパルドが先発から外され、ドリブラーのファンペルシやカルーがレギュラーになった事で小野が前線に飛び出す機会も減ってしまったのもやや気の毒だった。

今期、特にシーズン後半のプレイを見ていて思うのは、前に飛び出しても途中であきらめてスピードを緩めたとたんにパスが来てそのままゴールラインを割ったり、マークを他の選手に渡したつもりで誰も付いてなくて慌てて戻ると間に合わなくてピンチを作ったりと、とにかくプレイの「見切り」が非常に淡白だという事である。

もともと運動量で勝負するタイプじゃないとか疲労がたまってベストコンディションじゃないという理由は分かるが、ただ走る事だけがボランチの仕事ではない。ゲームの流れを読んで、的確なアタックで相手をつぶしたりパスカットする事が最も大事なのである。その点でファンボメルはもちろん、ボスフェルトにすらまだまだ遠く及ばないのは、監督にチームリーダーとして期待されていた割には寂しい状況だと言わざるを得ない。昨年のUEFAカップでのPSV戦で、対面のファンボメルと対等に渡り合った時にはこの先どれだけ成長するのかと恐ろしく思ったものだったが・・・

ともかく、5年という契約年数を考えると来シーズンの終わりが一つの売り時買い時である。オランダリーグは確かにレベルは低いが、欧州にフェイエ以上のクラブもそうは多くないのも確かだ。プレミアやリーガであっても、UEFAカップなど遠い夢の存在というクラブに移ったところで得るものは少ない。

従って、トップ下なら(今の)バッジョ、ボランチなら少なくともシャビやファンボメル以上のパフォーマンスを証明しなければ、とうていステップアップと言えるような移籍契約は不可能だろう。そのためにもこのシーズンオフにベストコンディションを整えて欲しいものである。

 

広山/ブラガ(ポルトガル) -

最終戦には先発したらしいが、彼も故障や外人枠の問題などから試合にほとんど出ていないので採点不能。クラブは一部残留を決めたものの彼の今後については不透明なままである。

しかし悲壮感漂う川口とは違って、彼の場合はどこでも自分を見失わずに生きていけそうな気がするのであまり心配していない(笑)。プレイ機会が必要だ、代表に選ばれる事が重要だと思ったら彼自身が自分で何とかするだろう。

と言うか、彼の海外移籍は自らの知的好奇心の探求の結果であり、代表に選ばれるかどうかについては、彼にとってもはや二の次なのじゃないかとも思う。

皮肉でなく、こういう選手がもっと増えて、様々な国に人脈を作る事も日本の将来のためには必要なのかもしれない。


サッカーコラムマガジン「蹴閑ガゼッタ」