「ワールドカップの世界地図」大住良之著 PHP新書 |
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初版が2002年3月とあり、巻末に日韓W杯の対戦表なんかが載っているので、おそらくW杯便乗本の一角として出された本なのだろうが、巷に有象無象のごとく排泄された「何某責任編集」などといった、資源の無駄使いとしか思えない大きさと派手な装丁の本と比べるのが全く失礼なほど、コンパクトな中にも中身が凝縮された、博覧強記の大住御大の面目躍如とも言うべき本である。
中身については、数々の名場面におけるプレイの解説と、それにまつわる社会的なエピソードから始まり、サッカー戦術の歴史的変遷、サッカールールと大会運営方式の変化、さらには日本代表の歴史や世界のサッカーの特色など、足らぬところも無ければ余すところも全く無い、まるでスイス製精密時計のムーブメントを見るような隙の無い緻密さである。
この本を手に取ったときには、新書サイズなのでもっと軽く簡単に読めてしまえるかと思ったのだが、意外にも読むのにかなり時間がかかってしまった。逆に言うと、それだけ夢中で読ませるだけの遊びと色気が無いということになってしまうのかもしれないが、いくら良くできていても受験参考書をむさぼり読む人間もいないわけで(笑)、サッカー世界史の「出る単」と呼ぶべきこの本に対しては批判とするには的外れなのだろう。