「見方が変わるサッカーサイエンス」浅井武・布目寛幸著 岩波科学ライブラリー |
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ずばり、サッカー選手のテクニックを、物理法則やバイオメカニクス理論でもって解明しようとしている本である。
一見難しそうに思える本だが、プロレベルのフリーキックがわずかプラスマイナス2度の角度のずれしか許されない世界であったり、鋭く曲がるフリーキックが、実はドラッグクライシスと言われるある速度を境にして空気抵抗が急激に変化する現象のたまものであったり、さらにはストイコビッチのインサイドキックが実は教本に載っている方法ではなく、サッカーに慣れていない子供がやる動作に近いなど、読んでいて思わず唸ってしまう内容に溢れている。
しかも、ただ「ためしてガッテン」的なネタばかりでなく、実は読者が自分のサッカーテクニックを向上させるために有益になる部分が少なくない。
例えば、一般的にトラップのテクニックは足を引いてボールの勢いを殺すと解説されている事が多いが、この本ではあの「家庭教師のトライ」のCMに出てくる、糸でぶら下がったボールが左右交互にカチカチと当たる運動をする、バランスボールと言われるおもちゃを例に出して、足の換算質量を下げる、つまりカーテンに物を投げつけたときのように、ひざから下の部分をリラックスさせる事が重要だと説く。これなど明日からでも応用できそうではないか。正に一石二鳥である。
ただ、これらの分析が「純粋テクニック」の部分に限られているため、基本技術だけは世界レベルに近づいている今の日本にとっては、後追いの実証研究に見えてしまうのが残念である。それよりも、日本人が不得意とする「ボールを止めて蹴る」以外のテクニック、つまり体の競り合いのバランスや腕で相手を押さえる効果、いろいろなマリーシアのテクニックなどについてを、もっと突っ込んで書いて欲しいと思ってしまう。
これからの研究と続編に期待である。