周知の事実だけど、やはり映像ならではの説得力「NHKドキュメンタリー ワールドカップ招致 闇の攻防」

昨日はサッカーの試合ではなく、NHK-BSで放送されていたデンマークの放送局が制作した「ワールドカップ招致 闇の攻防」というドキュメンタリーを見ていた。

これは、2018年と2022年の2大会同時に開催国を決定した、2010年のFIFA理事会での開催地決定投票にまつわるもので、ご存知のようにロシアとカタールに決定したわけだが、そのロシアと同じ年に立候補したイングランドとの攻防に焦点を当てている。

番組は、イングランド招致委員会の委員長だったトリーズマン卿、ロシアの責任者だった招致委員会CEOアレクセイ・ソロキン、そして最初はイングランド、のちに2022年の候補だったオーストラリアに雇われた、コンサルタントのピーター・ハーギタイへのインタビューで構成されている。

まず2018年の大会については、イングランドが招致を表明した後、ロシアが立候補した。ロシアは自分たちが初開催だとアピールしたが、開催を勝ち取れる自信は無かった。

2010年の投票の時、FIFAトップはブラッター、その下に各大陸連盟の理事がいて、理事1人に1票を持っていた。ハーギタイには、ノウハウ、人脈、理事会メンバー全員へのパイプがあり、そのためイングランドは彼と契約していたが、途中でハーギタイを含めたコンサルタントは全員解雇した。

イングランドの委員会は裏の手を使わなかったとトリーズマンは語っていたが、イギリスに亡命したロシア人スパイのリトビネンコをロシアが暗殺した4年後だったので、イングランドはロシアに疑念を抱いていた。そこでMI-6とつながりがある民間の情報会社を雇い、ロシアの招致委員会メンバー、FIFA理事の情報を集めた。また、大使館を通じてFIFA理事の動向を探った。

ブラッターは、ハーギタイに対してイングランドに勝ち目は無いと語った。ブラッターはプーチンの友人で、イングランドとは良い関係に無かった。ブラッターはロシアとアメリカでW杯を開催したがった。冷戦を終わらせることで、歴史的成果を狙った。狙いはノーベル平和賞だったのかもしれない?

ロシアは冷戦時代の暗い雰囲気ではない、開かれた民主国家としてアピールしたい意欲に溢れていた。一方でイギリスは傲慢で、収益面や施設等で自分たちは勝っていると過信していた。トリーズマンは、中南米の元イギリス植民地国家の理事とは良い関係を得ていたと思っていたが、その傲慢さ故に内心では反発を受けていた。

ハーギタイはイングランドを離れた後、2022年候補国のオーストラリアに雇われた。そこでドイツ人コンサルタントのフェドル・ラドマンと合う。ラドマンはブラッターの盟友で、有力なアドバイザーだった。

その後、ロシアのプーチン大統領が招致活動のテコ入れに入り、財界に対してFIFAの理事に対する裏取引を指示した。イギリスでもロシアの情報機関がスパイ活動を強化、イギリスの招致委員会のデータベースに対しても盛んにハッキングを行っていた。

2010年の南アフリカ大会には、FIFA理事が集まるタイミングを狙って各国の招致委員会が集結していた。しかしラドマンはロシアにいた。ベッケンバウワーとガスプロムの契約を取り持っていた。それは、ベッケンバウアーがガスプロムの広報大使に就任するというもの。ガスプロムは招致活動を裏で支援していたと言われている。

最終的な投票の前には大掛かりな政治的な介入があった。ベッケンバウアーに当時のドイツ首相であるウルフから、ロシアに投票するよう示唆をしたと言われている。そこには、ロシアとドイツの間を結ぶ石油パイプラインの拡大計画が絡んでいた可能性が高い。

そして投票結果はあっけなくついた。第1回目の投票でロシアが22票中9表を獲得したのに対し、イングランドはわずか2票。2度目の投票に進めず、イングランドは茫然自失だった。W杯はスポーツの祭典なんかではない、全ては政治であると、ハーギタイは締めくくった。

まあ、この投票については真っ黒けなのは皆知ってたし、どうせやるならもっと凄まじい実弾が飛んでいたカタール大会について取材をして欲しかったなと思ったけど、やはり実際に関係者からの直接的な映像と言葉は重みがあるなと。FIFA改革が叫ばれているけど、少数の理事による投票という形式がある限り、腐敗は無くならないんだろうね。また再放送があれば是非ご覧あれ。