「北京世代の卒業式は、華麗な打ち上げ花火で完結」ロシア・ワールドカップ日本代表総括

田嶋のやらかした発作的な監督交代のおかげで、あまり代表への思い入れが無いまま終わってしまったロシア大会だったが、ちょっと出遅れたけど一応は総括らしきものをしてみる事にする。

 

偶然見つけ出した最適解

最初に、西野監督が就任したと聞いて思ったのは、これはザックジャパンで未遂に終わった「自分たちのサッカー」をリトライしようとしているんだなという事だった。

Jリーグ時代から、西野監督にさしたる戦術論が無いことは知られていたし、戦術の押し付けが厳しかったハリルホジッチを選手のクーデターで解任に持ち込んだ流れを考えると、当然ながら本田を中心として戦術のディテールを作り上げる事になるはずだと予想した。

そしてガーナ戦、スイス戦とテストマッチを行ったのだが、西野監督のお気に入りである宇佐美と、クーデター首謀者本田というポジションレスでプレイスピードが遅い2人を2列目に据えた事で、全くスペースメイキング&マネージメントが出来ないチームに成り果て、これは本大会で3連敗して終わりかなと観念した。

が、いわゆる「リザーブドッグス」を出場させたパラグアイ戦では見違えるような内容で快勝。その要因は、先発した岡崎、武藤、香川、乾、柴崎といったメンバーはクラブではゾーン・ディフェンスをベースにした戦術でプレイしており、宇佐美や本田と違ってポジショナルプレーの重要性を理解していた事にあった。

そして怪我をした大島が主にショートパスで持ち味を出していたのに対し、柴崎はミドルパスにも秀でた能力を発揮、足元で小さく縮こまっていたザック時代の「旧・自分たちのサッカー」から、ハリル的要素を取り入れたワイドでダイナミックな「新・自分たちのサッカー」へと進化させた。

西野監督も、おそらく戦術としてのポジショナルプレーは深く理解していなかったとは思うが、さすがにガンバでACLを勝ち取った監督だけあって、上手く行っているチームのバランスを見定める能力は確かだった。こうして、多分に偶然の要素は強かったものの、日本は何とか最適解を見つけ出すことに成功、これがベスト16進出の原動力となった。

 

聞く耳を持つようになった選手

もう1つ、ザックジャパンの時から進化した点を挙げると、チームがスカウティングに耳を傾けるようになった事であろうか。

コロンビア戦の前半こそギクシャクしたところを見せたが、その後半とセネガル戦では相手の戦術変更にも落ち着いて対処、ベルギー戦でも70分間はしっかり状況を見定めて冷静に対処する事が出来ていた。自我ばかり先走ってコートジボワール戦で相手の3バックに為す術無く、ドログバが入ってパニックになった4年前を考えたら随分成長したものである。まあ、ほぼ全員が20台後半から30台のメンバーになってやっとかとは思うところだが・・・

サブに甘んじる事になった本田も、コロンビア戦こそこれまでのような我を出したプレイをしたものの、セネガル戦ではバランスを考えたプレイを見せ、チームのために一歩引いた立場で納得する大人の態度を見せた。

 

海外組が主導するチーム作りの限界

長谷部を中心とした海外組のベテラン主導によるチームは、開始3分で10人になったコロンビア戦の勝利で上手く波に乗った。が、過密日程を考慮して6人のメンバーを入れ替えたポーランド戦では、スイス戦を思わせるような機能不全に陥り0-1で敗戦。フェアプレーポイントでかろうじて決勝トーナメントに進出したが、レギュラー組との落差を見せつけられる試合になった。

そして案の定、ベルギー戦では相手がフェライニ、シャドリといった途中出場の選手がゴールしたのに対し、日本は植田や槙野といった守備陣を使いこなせず、結局は本田と山口といういつもの交代策であえなく逆転負け。レギュラー以外の選手は戦力的に蚊帳の外である事を証明してしまった。

乾と岡崎は、ハリルホジッチ時代よりもチームが良くなったと語っていたが、選手は自分を使ってくれる監督を褒めるのが当たり前。メディアには、ベルギー戦後には明らかに心が折れていた山口や、今回ほとんど出番が無かった選手たちにも本音を聞いてもらいたいところである。

 

狙われた守備プランの不在

日本はベスト16へと駒を進めたとは言え、それは4試合で6点を叩き出した攻撃によるところが大きく、守備では結局無失点で終わった試合は無く、ベルギー相手にはわずか25分間で3点を奪われてしまった。

そのベルギー戦での失点を後で見返したのだが、1点目はまあ不運な面が多かったとは思うが、2点目と3点目は守備の連携、選手全員が守備組織に対する共通理解が出来ていれば防げた失点だった。ハリルホジッチだったら勝てたとは言わないが、相手の戦術変更に対して無策では無かったはずだ。

まずフェライニにやられた2点目のシーンでは、アザールが中へ切れ込んだ時に昌子がラインを上げてオフサイドにかけようとしたが、原口が縦を切れずターンされ、DFラインがフェライニに置いてかれる形になった完全な連携ミス。そして3点目のカウンターでは、山口は長友と長谷部と並んだ位置まで下がってディレイラインを作るべきだった。

日本の場合、ユース世代でもJリーグでも、戦術のディテールを詰めるようなチームは極めて少ないが、やはり海外組に比べると、国内組の戦術的なセオリーの不足は目立っていた。

そして今大会を通じて川島のプレイが叩かれていたが、GKはコーチングなどDFとの守備連携が重要なポジションであり、ベルギーの監督にそこの不足を見破られてフェライニで狙われたように、山口と同様に彼もまた急造チームの被害者、スケープゴートであった。

結局、攻撃面での連携は何とかすり合わせたものの守備はほとんど手付かず、個人の経験と判断だけで対処していたようなもので、そんなディテールが曖昧な「なんちゃってゾーン・ディフェンス」でベスト8に勝ち上がれるほど世界は甘くない。選手による「自分たちのサッカー」の限界を露呈したと言える。

 

卒業式は盛大な花火で

ぶっちゃけ今大会については、南アフリカ大会に出場した北京五輪世代を中心としたメンバーが、そこで結果は出したものの守備偏重で不完全燃焼、ブラジル大会では自信が過信になって大失敗、そのリベンジを8年かけてようやく果たし、卒業して行ったストーリーだったと思っている。一般客は感動して喜んだのかもしれないが、続編に繋がる伏線も布石も何も考慮されず、我々のようなマニアは完全に置いてけぼりである。

ベスト16の主役となった、北京・アテネ五輪のメンバーは満足したのかもしれないが、久保や中島、井手口、浅野、大島、植田といった、これからの日本代表を担うべきリオ五輪世代は一切顧みられず、先輩から経験の引き継ぎも満足にされず、ポイッとこれからの代表に対する重責を押し付けられる事になってしまった。

今回の結果をもって、次はベスト8を果たせるなどとマスコミや西野監督は期待を寄せているが、いったい何の根拠があってそんな脳天気な事が言えるのだろう。長谷部や長友の後継者、吉田や酒井宏樹、大迫の後継者や代役の事を考えると、ただひたすら頭が痛くなるだけだ。

ロンドン五輪、ブラジル大会、そして今回と、日本はずっと選手たちが主導してチームを作る「自分たちのサッカー」で戦って来た。その集大成として、ロシアでベスト16という盛大な花火を打ち上げる事に成功したわけだが、まばゆい輝きの後に残るのは漆黒の闇である。

 

それでも何とか残った蚊取り線香

とは言え、ロシアでは単に結果だけを残して終わったわけではない。若手に経験値は与えられなかったが、日本サッカーがどういう方向に進めばよいかという方向性はおぼろげに見えて来た。DFラインを高く保って全員がデュエルを厭わずハードワークでプレスをかけ、ボールを奪ったら素早い動き出しでコレクティブにパスを繋ぎ、ポジションバランスを崩さず一気に攻め切るサッカー。

全部の花火を打ち上げてしまったと思ったら、種火用に使っていた蚊取り線香にまだ火が残っていたというところだろうか。日本代表は来年のコパ・アメリカへ招待される事が決まっているようだが、カタールでもまた大きな花火を打ち上げられるかどうかは、監督選びも含めてこの1年間の準備にかかっている事は間違いない。