「試合展開はもちろん、戦術的な攻防にも見応えがあった好ゲーム」天皇杯 準々決勝 大宮アルディージャ-湘南ベルマーレ

事前情報としては大宮が湘南に勝った事ぐらいしか知らなくて、普通にJ1年間5位の大宮が、J2に降格した湘南と力の差を見せたのかと思いながら試合を見てみたのだが、一時は湘南が逆転するシーソーゲームになっていたとは、良い意味で期待を裏切られた試合だったかなと。

試合は序盤から湘南が積極的に高い位置からプレスを仕掛け、大宮の縦パスをことごとくカットして速い攻撃を仕掛けるのだが、ラストパスの精度が悪くて得点には至らず。逆に前半15分を過ぎたところから、大宮が湘南の戦術的な穴を見つけ出し、そこを中心に攻撃を組み立て始めると試合のペースは一気に大宮へと傾き始める。

湘南は、攻撃時は3-1-4-2というフォーメーションで、守備時には右WBの奈良輪が下がって4-2-2-2になる変則的な戦術を採用したのだが、アンカーの菊地俊介があまりシフトせず、SHの高山と奈良輪の間に大きなスペースが生まれてしまい、縦パスをカットされていた大宮がそのスペースを使ってサイドから攻めて決定機を作るも、シュートが2度ゴールポストに当たってこちらも得点ならず。

そして前半32分に、それまで何度もサイドを切り裂いていた泉澤にマテウスからのスルーパスが渡り、泉澤が切れ込んで打ったシュートはまたもゴールポストに当たるが、今度はボールがネットの内側に跳ね返って大宮が先制する。さらに湘南にとって悪いことに、後半の6分に厳しい判定ではあったが奈良輪が2枚目のイエローで退場、これで早くも勝負が決まってしまったかに思われた。

しかし、10人になってしまった湘南がここでフォーメーションを4-4-1へと変更した事で潮目が変わる。それまで右サイドが1枚で不安定だった守備が、両サイドが2枚になった事で安定し、湘南は大宮に攻められながらもカウンターから何度か良い形を作り始めるが、ゴールに飛び込むのが1トップになった山田直だけではさすがに厳しく、さらにチョウ・キジェ監督は長谷川アーリアジャスールを投入して4-3-2へと攻撃シフトを強める。

すると後半25分に、湘南のプレッシャーを受けてGKへの横パスで逃げた後のキックがミスになり、ドリブルで真ん中へ突っ込んだ長谷川から石川、菊地俊介へとパスが渡り、右足で同点ゴールを決めてしまう。その後は大宮も体調不良で先発を外れていた家長を投入、大宮が再び盛り返すもリードは奪えず試合は延長戦へ。

さらに思わぬ形で試合は動く。延長前半3分に、センターサークル付近からアンドレ・バイーアが放り込んだFKに対して、飛び出た大宮のGK塩田とDFが重なってしまい、湘南の藤田が先に頭で触ったボールがゴールに転がり込んで、1人少ない湘南が逆にリードするという事態に。

このまま逃げ切れば湘南のアップセット達成だったのだが、延長後半になると湘南の足がピタリと止まってしまって大宮がほぼハーフコートゲームでボールを支配、それでも何とか湘南は耐え忍んでいたのだが、6分にクロスの折り返しを菊地光将が押し込んで同点にすると、その7分後にはまたも菊地がクロスに飛び込んで逆転。大宮は試合終了間際にも大空翼がダメ押しとなる4点目を決めて試合終了。

最後には力尽きてしまったが、序盤の戦術的な混乱を除けば湘南は本当に良い試合をした。今期は残念ながらJ2への降格が決まってしまったが、その後はこの試合で負けるまでは公式戦3連勝と地力は証明していた。Jリーグでは数少ないゲーゲンプレスを体現しているチームなので、来年は是非またJ1に上がってもらいたい。