「鹿島がアジア勢史上初の決勝進出を決めた要因は、”神がかり”と”学習能力”」FIFAクラブ・ワールドカップ 準決勝 アトレティコ・ナシオナル-鹿島アントラーズ

しかしアジア王者でも何でもない、単なる開催国枠で出場した鹿島アントラーズが、南米王者のアトレティコ・ナシオナルを3-0で破って決勝に進出するとは、いったい誰が大会前に予想できただろうか(笑)。

間違いなくその一番の要因は、まさに神がかりと言える運のよさ。マメロディ戦では前半に11本のシュートを打たれながらも無得点で抑え、アトレティコ・ナシオナルに対しても前半は実に13本、そのうち2本がゴールマウスに当たり、曽ヶ端は突然ワールドクラスのGKになって至近距離から打たれたシュートを止めまくった。

そしてトドメは、FIFA主催の大会としては初めて導入された、ビデオ判定によるPK。この場面、確かに西大伍は相手に足を引っ掛けられて倒されているのだが、ビデオが無ければ間違いなくスルーされていたシーンだったはず。これで先制点を奪った鹿島は守備に専念できる事になり、逆にアトレティコ・ナシオナルはより一層リスクをかけて攻めざるを得なくなった。そして最後はカウンターから絵に描いたような追加点。

とは言え、鹿島も運だけでここまで勝ち抜けて来たわけではない。個人的に運以上に驚かされたのは、とてもJリーグのチームとは思えないような、試合の中でも柔軟に、かつ統一感を持って戦術をアジャスト出来る、鹿島の学習能力だった。

マメロディ戦では、いつものJリーグのように高い位置からプレスをかけようとしてフィジカルで交わされ、後ろのスペースを散々使われてピンチを量産するも、後半からはきっちりゾーンを組んで待ち受ける戦術に変更して一気に戦況をひっくり返した。

このアトレティコ戦では、さすがにマメロディ戦のような前方プレスはかけずにゾーン・ディフェンスで試合に入ったが、1対1のマーキングを個人能力で剥がされ、そのカバーに他の選手が動いて出来たスペースを使われるという、ゾーン・ディフェンスの弱点を突かれて前半はかなり劣勢に立たされてしまった。

しかし後半になってからは、鹿島が先制してやりやすくなったという理由はあるものの、均等な4-4ゾーンではなくてDFラインの4バックをシュリンクして中央を固め、サイドはボールサイドのSHが下がって5バックのようにする、ハリルホジッチがオーストラリア戦でやったような守備で徹底的にスペースを埋めた。そして薄くなった中盤は、ボールサイドに3人がシフトしてカバーするなど、戦術的な流動性も整えられていて、いつの間にJリーグのチームがこんな守備を出来るようになったのかと瞠目する思いがした。

昨日のTwitterで久々につぶやいたのだが、ACLで全く結果が出せていない日本のクラブが、クラブW杯では健闘できるというのは単なるホームアドバンテージだけではなく、この短期間の間に世界のクラブと連続して対戦することで、チームが急速に経験値を獲得できるからだと思っている。もし鹿島が、マメロディ戦をやらずにアトレティコと対戦していたら、アジャストしきれず前半のうちに試合は終わってしまっていたはずだ。

ACLで日本勢が結果を出せないのは、長いスパンの間にJリーグがあるので、せっかくアジアのフィジカルサッカーに慣れても日本に帰るとまたショートパスやスペースを埋めるだけの守備に慣れてしまい、せっかくの経験がリセットされてしまう事が大きいと思っている。ザックジャパン時代の東アジアカップで結果を出せたのも、やはり短期間で集中して経験を得た効果のおかげだろう。

選手が壊される、判定で嫌な思いをするとかで、日本のサッカーファンは中韓のクラブと対戦する事を嫌がる向きが多いが、個人的にはもっと交流試合があって良いと思っている。そうする事で、日本のガラパゴスサッカーも徐々に変わっていけるはずだ。もちろん、Jリーグとして個人能力の高い外国人選手の獲得も必要だけどね。

次はとうとう12/18に行われる決勝が待っているわけだが、もしレアル・マドリーと対戦したとしても、こんな風に上手く行く事はまずあり得ない。アトレティコは比較的中盤の守備がルーズで、鹿島もある程度ボールを受けてから前を向ける余裕があったが、レアルはそんなスキは与えてくれないだろうし、この試合では植田がずさんな縦パスを連発していたが、そんな事をレアルにやったらあっという間にシュートまで持って行かれるだろう。

鹿島がこの大会で見せてきた学習能力で、レアルとの試合中にどこまで自分たちで対応、向上して行けるのか。勝敗どうこうよりも、その部分に注目して試合を見てみたい。