「ジャンケンでグーしか出せなくても、グーに勢いとパワーがあれば噛み合わせでアップセット出来る」EURO2016 準々決勝 フランス-アイスランド

人口わずか30万人という東京の中野区に並ぶぐらいの小国でありながら、グループリーグを同勝点の2位で突破し、決勝トーナメント1回戦ではイングランドを破ってベスト8と、間違いなく今大会最大のサプライズとなったアイスランドの快進撃。

しかし準々決勝で対戦したフランスには、前半12分にオフサイドラインギリギリで抜けだしたジルーにGKの股を抜くシュートを決められて早々に先制点を与えてしまうと、19分にCKからポグバのヘディング、42分に左右にボールを振られてパイェのミドル、前半ロスタイムに縦パスをジルーがスルーしてライン裏に抜けたボールをグリーズマンが持ち込んでチップキックで4点目と、前半のうちに色んなパターンで得点を奪われて事実上そこで勝敗は決してしまった。

イングランドに勝ったアイスランドがここまでフランスにやられてしまった理由は、ひとえに戦術のミスマッチにある。アイスランドは、今大会では珍しくコンベンショナルなゾーンディフェンスで、4バックもあまり内側にシュリンクせず、常時4-4のコンパクトなゾーンを保って守るタイプである。

こういう形の守備には、4-4のゾーンの間に前線の選手が交互に入ってボールを引き出し、マークがずれて隙が出来たらターンで前を向いてドリブルやワンツーでDFラインのの間を通して崩す、いわゆるエントルリアネスを多用する攻略法が確定していて、フランスにはグリーズマンとパイェという狭い中でもボールを扱える選手が揃っていて、そこにジルーの高さ、ポグバのダイナミックな攻撃参加と、ゾーン泣かせのプレイが出来る選手が加わってアイスランドの守備は木っ端微塵にされてしまった。

これがイングランドだと、連中はサイド攻撃ばかりでゾーンの間を攻めるという概念がなく、そもそも中盤やDFからゾーンへ縦パスを出せる選手もおらず、いくらドリブルからクロスを上げても高さで勝るアイスランド守備の餌食になるばかりだったが、さすがにフランス相手に”自分たちの守備”では荷が重すぎた。ユーロで5試合目とあって全体的に運動量が落ちて高い位置からプレスがかけられず、前でボールを奪えなかったのも影響したのだろう。

後半になるとアイスランドはSBが高い位置取りをし、カウンターのリスクがあってもとにかくボールを前に放り込み、競り合いでセットプレイやスローインに持ち込んで前線に人数を揃えてクロス、というほぼパワープレイの攻撃を全面に押し出して来たが、後半11分にはクロスに対してユムティティの反応が遅れてシグソールソンに前へ入られ、39分には単純なクロスにマークがずれて失点と、終わってみれば5-2と大味な結果になってしまった。

フランスはラミとカンテが累積警告だったとは言え、もともとSBの守備に弱みを抱えているところに、さらにユムティティとマンガラという代表経験の浅い選手が入った事で、アイスランドに2失点してしまったのはドイツ戦に向けて不安が残る内容になってしまった。今大会については、ブラジルW杯とは逆に攻撃のフランス、守備のドイツという対戦になるが、戦術的にどちらがどう出るか読めないだけに、ある意味楽しみな試合である。