「真・自分たちのサッカーと、脱・自分たちのサッカー対決」EURO2016 準々決勝 ドイツ-イタリア

現在世界チャンピオンのドイツと、全EURO王者のスペインに完勝したイタリアという「事実上の決勝戦」対決は、予想通り延長戦になっても結着が付かず、PKもサドンデスまでもつれ込んだ上にドイツが勝ち上がるという文字通りの死闘になった。

それにしても、PK戦の5人目まではどちらも3回が失敗というのは、いくら120分間を戦った後とはいえ、世界レベルの経験と技術を持った選手が揃っているとは思えないほどの成功率で、それだけノイアーとブッフォンという世界No.1GKを前にしたキッカーへの重圧が物凄いのだろう。特にブッフォンは、ドイツのPKに対してほとんど方向の読みが当たっており、残念ながら結果的に防いだ回数は1度だけだったが、ほとんど逆を取られてしまう某島国のGK連中を見慣れた目には、同じ人間だとは信じられない精度だった。

さて試合のほうだが、まず驚いたのはドイツが3バック、しかもアンカーを置いた3-1-4-2というイタリアと全く同じフォーメーションにして来た事だった。確かに、イタリアの戦術的なポイントは、素早く大きなサイドチェンジをWBに送って基点を作る事であり、そこをドイツも同じWBでマッチアップさせる事で大きな展開を封じ込める事に成功していた。

そしてレーヴ監督が施したもう1つの策が、イタリアのカウンター対策。イタリアのカウンターは、ペッレに対して一発のロングボールや楔を当てて、そこにエデルとジャッケリーニが絡んで3人で一気に攻めこむ形が特徴で、ドイツは3バックで数的優位を作ってイタリアの2トップを封じると同時に、ケディラ(途中からシュバインシュタイガー)がジャッケリーニにマンマークで付くという策を徹底させていた。

つまり、ドイツは実力的にイタリアよりも上でありながら、「自分たちのサッカー」を完全に捨ててイタリアに合わせてきたわけで、それは単に純粋な戦術という意味合いだけではなく、それによって一切の驕りや過信を選手に起こさせないという効果を狙っていたのではないだろうか。

だいたい、自分たちのサッカーなんてのは本番でキッチリ結果を出したイタリアやアイスランドにこそ使って良い言葉であって、某島国のように、ちょっと親善試合で気を抜いた相手に結果を出しただけで、自分たちのサッカーが世界に通用するんだ!なんて酔いしれてしまうお子ちゃまぶりとは天と地ほどの差があると言えよう。

これで試合の前半は互いに相手の強みを潰し合う展開になり、ハーフタイム前に互いに決定機を作ったぐらいで緊張感を保ったまま後半に入ると、そこまで走らされてきたイタリアの守備網にほつれが見え始め、クロースからの大きな展開にイタリアのマークがずれるようになってドイツが攻め込み始めると、後半20分に左サイドでドイツがボールを奪い、サイドに流れたマリオ・ゴメスがクロスを上げると、中へ飛び込んだエジルが上手く合わせてドイツがとうとう先制点を挙げる。

イタリアはこれで苦しくなったと思ったのだが、32分にイタリアのCKから折り返したボールを、ボアテングが両手を上げて競り合った際にボールが当たり、もちろん審判の手はペナルティスポット。そしてボヌッチが決めてイタリアがラッキーな同点に追いつく。その後は互いに散発的なチャンスを得るものの決め手はなく、延長戦でもスコアが動かずに試合はPK戦に。そして結果は御存知の通り。

イタリアはドイツに戦術が抑えられたのもあったが、やはり中盤の底から展開できるデ・ロッシがおらず、フンメルスとクロースという展開役が2人もいるドイツに対して、ビルドアップで遅れを取った事が後半のペースダウンに繋がったのが痛かった。しかし戦前の評判からすると大健闘と言うしか無く、ここで消えるのが残念な好チームだったのは間違いない。

ドイツは勝ち抜けは決めたものの、ケディラとマリオ・ゴメスを失い、守備の要であるフンメルスが出場停止と、準決勝で対戦するフランスとの試合には暗雲が立ち込めた格好。フランスはイタリアほど自分たちのスタイルが確立されているわけでなないので、どういう展開になるかは正直読めない。フランスの戦力的にはSBに弱みを抱えているので、そこをどうレーブ監督が突いて来るかに注目したい。