「チェコの”戦術ロシツキー”が、ガンバの遠藤やFマリノスの中村と決定的に違う点」EURO2016 グループE スペイン-チェコ

前人未到のユーロ3連覇を狙うスペインの初戦は、世界トップクラスのGKチェフ擁するチェコ。ともにユーロ前の親善試合で韓国と戦い、スペインは6-1で大勝したがチェコは1-2で敗戦と対照的な結果になっただけに、スペインが貫禄を見せるかと思われた。

しかし試合展開は、ハーフコートゲームのようにスペインがひたすら攻めるのだが、前半16分にシウバの決定的な折り返しに合わせたモラタのシュートを至近距離で止めたのを始め、29分のモラタ、40分のジョルディ・アルバとスペインがPAの中まで崩してから放つシュートをGKチェフが超人的な反応で弾き返し、それに呼応するかのようにチェコの守備陣が高い集中力を見せて最後の部分で体を張って得点を許さない。

チェコのフォーメーションは、攻撃時は4-2-3-1だが守備時は中盤が完全に1列に揃った4-5-1の形になるシステム。それだけなら特に珍しくない話だが、チェコが面白いのは、本来はトップ下であるロシツキーは、守備時は2列目の真ん中じゃなくて色んな場所に顔を出し、時にはSBの位置にいたりアンカーにいたり、2列目の飛び出しをマークしたりと個人の戦術眼でポジショニングをしていた事。

いわば、ロシツキーはJリーグのガンバにおける遠藤や、Fマリノスにおける中村俊輔のような役割を担っていたとも言えるのだが、決定的な違いはJリーグの場合とは違ってロシツキーが完全にゾーン・ディフェンスの一部として機能している事。特にロシツキーが2列目に居る場合は、センターであろうとサイドであろうと、5人がきちんと均等間隔を保って並んでいるのだから、自由に動いているように見えても守備に穴が無い。だからスペイン相手にも耐えられるというわけだ。

後半になると、前半はとにかくパスを1トップのネツィドに送るしか無く、ピケとセルヒオ・ラモスの2人に封じられて全く機能しなかったチェコの攻撃が、ボールを奪ったら縦に放り込むだけではなくて、いったんサイドで落ち着かせてからロシツキーの上がりに繋ぐ形に変えてようやくチェコの攻撃が回り始め、この試合最大のチャンスが訪れる。

17分に右サイドからのFKで、フブニークが完全に抜け出して足に合わせるもダフってしまいデ・ヘアに防がれると、20分にもショートコーナーからゲブレ・セラシエが折り返し、カデルジャーベクが飛び込んだ手前でセスクがギリギリのクリアを見せ、スペインは何とか失点を免れる。

デル・ボスケ監督は終盤にチアゴ・アルカンタラ、ペドロを投入するもゴール前で人数を固めて守るチェコの牙城を崩せず、ドローの可能性が高くなって来た後半42分、ショートコーナーからの展開でクリアボールを拾ったペドロからオーバーラップしたイニエスタにパス、イニエスタが狙いすましたクロスを送ると、CKからの流れで残っていたピケが一歩抜けだしてヘディング、さすがのチェフも止められずスペインが土壇場で1点をゲット。

しかしチェコも最後の力を振り絞り、ロスタイムに左サイドでの繋ぎから最後はフリーになったダリダがPA内からシュートを放つものの、コースはGK正面でデ・ヘアがしっかりセーブ、そのまま試合はタイムアップ。スペインが苦しみながらも初戦で勝ち点3をゲットした。

スペインは、やはり大会前に懸念されていたモラタとアドゥリスのCFがチームにフィット仕切れていない点が、苦戦の大きな原因だった事は間違いない。左SHとして抜擢したノリートも、サイドに張ってからのドリブルと、バルサにおけるネイマールのような役割を期待されていたのかもしれないが、安定感には乏しかった。そんな中でチームを救ったのはベテランのイニエスタ。スペインのテクニシャンの中でも別格の戦術眼とプレイ精度でアシストを決め、スペインは彼のチームである事を改めて証明した。

それにしても、ワールドカップのギリシャといい、キリンカップのボスニア・ヘルツェゴビナ、そしてこのチェコと、守備に専念した時の欧州中堅国の固さは本当に見事というしか無い。守備組織が連動し、各選手につまらないミスが少なく、危ないシーンでも1人だけじゃなくて複数の選手が体を投げ出してスライディングする。もちろん絶対的なエースのロシツキーであっても守備の例外ではない。それに対して、あまりにもあっさりやられ過ぎたキリンカップの日本と比べると絶望的な気分になるが、どうやったらこの”守備の文化”の差を埋められるのかねえ・・・