「柿谷とチームメイトの間に広がる大きな溝」スイス・スーパーリーグ第6節 シオン-FCバーゼル

前節は1トップで先発ながらもザンクトガレンに完封負けに終わった柿谷は、中2日のシオン戦では4-3-3の右ウイングとして先発したものの、ほとんどボールには絡めず54分にデルガドと交代、チームは最終的に競り勝ちはしたものの柿谷にとっては消化不良に終わった試合であった。

それにしても、スイス・スーパーリーグをきちんと見るのは実質的に初めてだけど、スイスという牧歌的なイメージとは正反対のマッチョなサッカーが繰り広げられているのには驚いた。ピッチは総じて芝がフカフカと長くて脚を獲られやすく、守備のタックルは激しく深いし、PAの中で腕を使って倒されてもまずPKの笛は吹かれないという、W杯の基準などどこ吹く風といった具合。そういう基準からすると、柿谷のプレイは正直言ってお嬢さんがサッカーをしているように見えてしまう。

特に気になるのは攻撃時のポジショニングと動き。守備の時には4-3-3からボールサイドにいる方のウイングが下がって4-4-2の形に吸収されるのはゾーン・ディフェンスの定石ではあるのだが、これが攻撃になるとボールと反対サイドのウイングがシュトレラーのほぼ真後ろの位置、つまりトップ下まで中に絞る極端なポジショニングに変化する。

左ウイングに入ったガシや柿谷に代わって出場したデルガドの動きを見ると、2列目の選手はある程度1トップのシュトレラーから離れたところに位置し、シュトレラーに飛んできたボールのフリックを期待してシュトレラーをダッシュで追い越し、DFラインの裏で受けるか、シュトレラーにプレスバックする中盤よりも先に飛び出してリターンを受け、そのままドリブルでラインの裏へ抜けるというように、とにかくスピードに乗った状態で前を向いてボールを受ける動作が徹底されている。

ところが柿谷はシュトレラーに近い位置で立ったままボールをもらおうとしているので、そもそも前を向いて直接ボールを受けられないし、たまたま足元に来ても密集状態の中にいるのですぐさま相手に囲まれて味方へのパスをカットされてしまう。もっとSBやインサイドハーフがフォローしてくればプレイの選択肢やスペースは増えるのだが、バーゼルの攻撃がその形に特化されているので柿谷が合わせないとどうしようもない。DFの裏へと単独で飛び出すだけではなく、味方とのコンビや相手との位置関係を計算して受ける形を物にしないと今後も厳しいのは確かだろう。

そして全体的なプレイインテンシティの弱さ。常にボールを正確にコントロール出来る余裕を残してプレイしたいという姿勢があるのかもしれないが、もうちょっと全速で走ればGKよりも先に触れる、戻ってくるCBより先にクロスを合わせられる、スライディングでボールを奪えるのに、もういいやと8割程度の力しか出してないように見えるのは、マッチョなファンに対して印象が悪いように思える。柿谷のスピードがあれば、ロンドン五輪での永井のように、1人で相手守備に脅威を与えられるはずである。

今までのスマートでオシャレなプレイスタイルから、がむしゃらに泥臭い選手に変貌できるかどうか。柿谷自身はこんなはずじゃなかったと思っているのかもしれないが、スイスリーグは意外と彼にうってつけの舞台であるように思うのだ。