「もしこの舞台に香川がいたならば」UEFAチャンピオンズリーグ決勝 ボルシア・ドルトムント-バイエルン・ミュンヘン

週末から週明けにかけて、イベントや仕事の関係で多忙だったのでなかなかCLの決勝を見られなかったのだが、ようやくじっくりと見る事ができた。
期待通りというか、噂に違わぬハイペースかつハイレベルで拮抗した試合で見ていて大変楽しい試合ではあったが、チームとしてどちらが優れていたかと言う点ではドルトムントのほうが上だったのかなと。
ドルトムントがバイエルンに対して取った方策は非常にシンプルで、とにかくバイエルンの守備陣形が揃う前に攻め切ってしまう事。そのためにあえてポゼッションをして試合を落ち着かせる事を放棄し、フンメルスを中心としてビルドアップの暇なくドンドンとレヴァンドフスキに向かって縦パスを入れてしまう。
それが通ってしまえばOKだし、たとえミスになったとしても、ボールを持ったバイエルンの選手に中盤がプレッシャーをかけ、DFラインがマンジュキッチよりも前に出て待ち構え、パスの出どころと受けどころに二重で罠をかけてボールを奪い返し、すぐさまサイドの上がりに合わせてハーフカウンターを仕掛け、バイエルンが守備を整える間もなく中盤の選手がゴール前に入り込み、クロスに合わせる。
特に前半はそのプランがピタリとはまり、少なくとも3度の決定機はあったのだが、クロスを中で受けてからのコンビネーションが無くて、素直にシュートを打ってしまったりで結局ノイアーの牙城を崩せなかった事が、ドルトムントにとっての致命傷になってしまった。
バイエルンはドルトムントに圧倒された序盤を何とか凌ぐと、前半20分過ぎからようやくサイドのコンビネーションでボールを前に運べるようになり、単発でチャンスを作れるようになる。そして後半に入ってドルトムントのプレッシングの勢いが落ち始め、エアポケットのように流れが止まった60分に、リベリとロッベンが2人のコンビネーションでドルトムントの高いラインを抜け出し、ロッベンの折り返しがGKヴァイデンフェラーの足に当たって転がったボールをマンジュキッチが押し込んで、個の力で先制点をもぎとってしまう。
その8分後に、ドルトムントはダンテのファールでもらったPKをギュンドアンが決めて同点に追いつくのだが、70分を過ぎると前線とDFラインの間が空いて来るようになり、バイエルンがようやくボールを支配して攻めこむものの、ヴァイデンフェラーが好セーブを連発して得点を許さず。
しかしとうとう89分に、一発のロングボールを受けたリベリがPA内で上手くキープし、ヒールで出したパスをロッベンが拾い、フェイントをかけてからファーサイドへとコースを変えて流し込む冷静なシュートを決める劇的なゴールで勝ち越し、これが決勝点となった。
チーム力として上回っていたのに、最後は個人の力でやられてしまったと言う点では、まさにビッグクラブの底力というか、こういう舞台でこそ違いが出てしまう経験の重みを感じざるを得なかった試合だった。そしてそういう観点で見ると、ますますここに香川がいればどうたったのかなと想像をしてしまう。
香川の特筆すべき長所は、冷静にGKの動きを見てシュートを流し込める冷静さ、ゴールに近ければ近いほど発揮されるプレイのアイデアであり、それはこの試合でのドルトムントに最も欠けていた点である。しかし、ドイツ・カップならともかく、CLの決勝でその能力を出し切る事が出来るかどうかはまた別問題だろうし、とにかく来年こそは絶対にこの舞台で彼の姿を見てみたいと、改めて痛切に思った次第である。