「戦術的には、香川のところから危うく破綻しかけていた」ロシアW杯アジア最終予選・UAE戦回顧
- 2017.03.25
- 日本代表
さすがに試合を見終わった午前2時半から戦評は書けないし、朝も睡眠不足でとても頭が回っていなかったので、帰宅してから改めて試合を戦術面からじっくり見直してみた。
で、見終わっての正直な感想は、「まあ良くこれで勝てたな」と(笑)。ぶっちゃけ、戦術的には上手く行ったどころかほとんど破綻しかかっていたと言って良い。これで勝ったから良かったものの、戦略的にはバクチも良いところである。あのオッサンはホント根っからの博徒だよね(苦笑)。
練習で4-3-3のフォーメーションをテストしていたと聞いた時には、確かに前から4-3-3を試して欲しいとは言い続けていたけど、今の日本には世界レベルの試合でアンカーが出来そうなのは長谷部しかいないし、今回スタメン候補だった今野と山口はどちらも人に食いつくタイプだから、とても中盤のバランスなんか取れないだろうと。
第一、今まで1度も試したことがないフォーメーションなのに、戦術練習をやっているような時間はまず無い完全なぶっつけ本番を、負けたらW杯出場に黄信号が点灯する大一番であるUAE戦でやるはずは無いだろうと高をくくっていたら、蓋を開けたらまさにその4-3-3で仰天、そして案の定、日本の守備は完全なカオス状態になってしまった。
ただその原因は今野や山口よりも香川のポジショニングにあった。香川は右のインサイドハーフだったが、高さ的にはほとんどトップ下の位置まで上がっており、今野はオマル・アブドゥルラフマンのマークをしながら自由に動き回っていたので、バイタルはほとんど山口1人だけが見る形になっていた。当然、両サイドに相手の選手が入って来ると山口が寄せに行くのだが、多勢に無勢で後追いになるだけで、孤立しているからパスの出しどころも無くて無理に出してはミスパスになってしまっていた。
前半に川島がGKとの1対1を体に当てて防いだ決定的なピンチでは、直接の原因は森重がアタックに行って交わされ、山口がカバーを怠った事にあるのだが、その前のシーンを見ると香川が上がり過ぎててスペースを使われ、マークに行くのも遅れて全くファーストディフェンスが出来ていなかったのが分かる。
それでも完全に破綻しなかったのは、左サイドの原口と長友が上手くマークを受け渡しながら、今野が動いた後のケアをしっかりやっていたおかげであり、右サイドの久保は基本的にサイドに張ったまま、酒井宏樹もサイドを塞いでいるだけだったので、香川が上がったスペースを誰もマネージメントしていなかった。
かと言って、香川は上がっていたから攻撃に絡めていたわけでもなく、おそらく香川としては大迫のポストプレイから前を向いてボールを持ちたかったのだろうが、香川はかなり警戒されてマンマークを付けられていたので、攻守において中途半端に漂っていただけだった。
ちょっとだけ香川の擁護をすると、前半30分頃からオマル・アブドゥルラフマンが日本の左サイドを嫌って右へ移った時に、今野と入れ替わるようにして左SHに入ったのだが、ドルトムントでいつもやっているポジションだったおかげか、そこではちゃんとスペースを埋める守備が出来ていた。ぶっつけ本番で慣れない右SHをやれと言われても、トップ下のようにしかプレイ出来なかったのかもしれない。
前半の終わり頃は、相手のロングボールに押されてラインが下がってボールを支配されはしたが、香川のポジションが安定すると同時に、山口もだんだんアンカーとしてのプレイに慣れて来て、ある程度落ち着いて守れるようになったかなと思ったのだが、後半開始からまた日本は戦術的な危機を迎える。
右サイドでオマル・アブドゥルラフマンを中心として、何度もポジションチェンジとオーバーラップを繰り返すと、原口と長友はマークを何とか受け渡していたのだが、今野がどこに入ってよいのか迷いを見せ、結局後ろから飛び込んだ選手を捕まえきれずに2度の決定的なピンチを許してしまった。ただ、そこでUAEが決めきれず、逆に久保のクロスから今野が決めて日本に2点目が入った事が、この試合のターニングポイントだった。
これで勢いが出た日本は、引いて守る形を捨ててどんどん前からプレッシャーをかけるようになり、UAEはフルスロットルで同点を狙いに行った直後に2点目を決められ気落ちしたところに、前半から飛ばした影響が出てみるみるうちに勢いが消えてしまった。
後半に香川から代わって同じポジションに入った倉田は、攻撃に動き回るが守備もスプリントでしっかり戻り、コースを消すだけじゃなくてマークに行けばきっちり体を当てるなど、シュートはガンバでのプレイ同様かなり残念だったが(笑)、守備面では香川よりもインサイドハーフとしての適性がある事を示したと言える。
と、ほとんど香川についての厳しい文句ばかりを書いてしまったが、元から色んな責任やタスクを頭で考えてプレイしてもロクな事にならないのは分かりきっているわけで、クロップ監督時代のドルトムントのように、チームタスクは他の選手がきっちりお膳立てし、香川は自分の感覚で楽しく本能的にプレイさせて初めて本領を発揮できる選手なのだ。その意味では、ハリルホジッチはまだ香川という選手を理解できてないと言える。
タイ戦は誰が先発になるのか全く予想が出来ないが、もし4-3-3で行くならインサイドハーフには香川よりも清武か高萩、もし香川を使うのであれば4-2-3-1のトップ下と使い方を限定したほうが良いのではないかと思う。
-
前の記事
「ここでグループを抜け出す国が出て来るのか」ロシアW杯アジア最終予選 各グループの動向 2017.03.24
-
次の記事
「バルサでは黒子、セレソンでは”メッシ”になってしまうネイマール」ロシアW杯南米予選 ウルグアイ-ブラジル 2017.03.26