「チッチ監督がセレソンを蘇らせた理由は、ブラジル新旧戦術のいいとこ取り」ロシアW杯 南米予選第12節 ペルー-ブラジル

コパ・アメリカ・センテナリオでまさかのグループ敗退、南米予選も6位に低迷とどん底の状態まで落ち込んでしまったブラジル代表。しかしドゥンガからチッチへと監督が交代してからは、宿敵アルゼンチンを3-0で破ったと思ったら、今度は南米王者ペルーもアウェイで2-0と撃破、あっという間に勝ち点4差で首位を独走する脅威の復活を遂げてしまった。

その最大の理由は、やはりチッチ監督がもたらした守備組織の改革だろう。ドゥンガ監督時代の戦術は、4-1-4-1のゾーン・ディフェンスで固く守るのはいいのだが、守備陣と前線を繋げる存在がネイマールしかいなかったので、彼を抑えられてしまうととたんに手詰まりになってしまうという致命的な欠陥を抱えていた。それは戦術指導の問題というよりも、ブラジルサッカー自体が切り替えの早いモダン・ゾーン・ディフェンスに合っていなかったと見るべきだと思っている。

チッチ監督の場合、相手がブラジル陣内で前を向いてボールを持った時は2ラインのゾーンを作り、DFラインの1枚がプレスに行ったら誰かがカバーするディアゴナーレも忠実に行っていたのだが、ボールが一度ブラジル陣内から下がっていくと、速やかにゾーンからマンマークへと移行し、相手の攻撃陣に対して数的に余っている選手はどんどん前に出てブラジルの攻撃をサポートしに行くので、ネイマールが過度に孤立する事が無くなった。

基本的に守備はマンマークで個人戦術を活かして少ない人数で守り、攻守に走り回らずゆったりしたペースでボールを繋ぎ、局面のコンビネーションから一気に加速するのがブラジル伝統のサッカーであり、チッチ監督はその古いブラジルスタイルと、モダンなゾーン・ディフェンスを上手く融合しているように思う。

この試合でも、ホームのペルーは序盤から4トップのような形でブラジルのDFライン4人にプレッシャーをかけ、ブラジルが苦し紛れに3トップへ出す縦パスをことごとくカットして攻撃を繰り出すのだが、前半7分にこそゴールポストを叩く危ないシーンはあったものの、ブラジルはゾーン・ディフェンスで粘り強くしのいで前半を無失点で折り返す。

後半になって相手のプレスが落ちたところで今度はブラジルがサイドを攻め立て、12分に右サイドのクロスをコウチーニョがドリブル突破、DFに当たったボールがジェズスの前に転がり先制点を奪うと、さらに前がかりになったペルーの焦りをあざ笑うかのように、34分には左サイドから完全に崩して最後はレナト・アウグストがファーサイドへ流し込んで2-0。これで試合はもちろん勝負あり。

結果も内容もブラジルの強さを確信する試合だったが、あともう1つブラジルで印象的だったのはコウチーニョの活躍。インテル時代のアレは何だったんだというぐらいに今はリバプールを完全に牽引している存在だが、セレソンでも切れ味鋭いドリブルで存在感を発揮、ネイマールとの完璧な補完関係を作り出せている。これでまだ荒削りなジェズスが本格化したら、まさかのブラジル黄金期再到来になってしまうかもしれないなあ。