「失われた14年から、ようやく立てた戦術のスタートライン」ロシアW杯アジア最終予選 グループB オーストラリア-日本

悲しき社畜には6時の試合開始などに帰宅が間に合うはずもなく、ハラハラしながらTwitterのタイムラインを追って結果を知ってから寂しく試合を見たわけだけど、試合の内容を振り返るには冷静になれて良いのは事実だよね。

セルジオ越後を筆頭に、日本は攻撃的なサッカーを失ってしまった、こんな臆病な日本は見たくないのでハリルホジッチ解任!みたいに息巻いている人をたくさん見るのだけど、遠藤と内田というザックジャパン時代にビルドアップの中心になっていた選手が居なくなり、それでも自分たちのサッカーをやろうとした結果がUAE戦だったわけで、そんな事も既に忘れてしまったのかよと呆然としてしまう。

選手起用についても、何で清武じゃなくて香川、右SHに小林を使ったのかと言われているが、実際に試合を見るとその意図はすぐに理解できた。日本の守備戦術はまさしく4-4-2のゾーン・ディフェンスで、中盤の4人は忠実に前にいるボールホルダーにプレスをかけ、香川はアンカーのジェディナクをマークしつつ、プレスバックで中盤の守備を助けていた。香川はドルトムントでインサイドハーフの経験があって中盤守備に加担するポイントは分かっているし、川崎でゾーン・ディフェンスを経験している小林も守備のタスクをしっかりこなせていた。清武では香川のようなバランスを見る守備は難しかったはず。

本田を右SHじゃなくて1トップにしたのも、岡崎よりも前線でキープできるフィジカルがあるのと同時に、香川と一緒に中へ入りたがって守備のゾーン作りに間に合わないリスクを排除する狙いがあったのだろう。実際にそれでオーストラリアは日本を攻めあぐねていたので、試合のコンセプトがアウェイで勝ち点1以上を狙うという事であれば、この人選は十分論理的で正しい選択である。

後半になって、小林と原口がサイドの深いところに押し込まれたので、何故疲れた選手を変えない!交代が遅い!という采配への非難が噴出していたが、それは後半からオーストラリアがジェディナクをCBまで下げた3バックにした3-1-4-2という形に変更してきたため、原口と小林が相手のSBと一緒に下がらざるを得ず、槙野と酒井高徳も中に絞って中央を固め、香川も前に上がって来る相手のインサイドハーフに付いて行ったため、どうしても全体が下がってしまう羽目になってしまった。

そこで浅野や清武を早めに入れる選択もあるのだろうが、そこで相手SBへのマークを捨てて変に攻撃的なスイッチを入れてしまうと、逆にカウンターのカウンターを浴びる危険性が出てきてしまう。ハリルホジッチが語っていたように、セットプレイの危険性を考えると迂闊に選手交代が出来なかったという理由もあるだろう。もちろん勝ち点3がどうしても必要な状況であればこの采配ではダメなわけだが、引き分けで良しとするなら失点のリスクを優先するのは当然である。

惜しむらくは、言うまでもないが酒井高徳がソーンで守らず人に食いつく悪癖を出して、そのカバーで無理に原口が無用なアタックに行ってしまった二重のミスを犯した事。そして先制点の場面は上手く行ったが、後半の開始直後や、最後に浅野が届かなかった場面など、せっかく相手の高いサイドを破ってカウンターを仕掛けられる場面があったのに、最後のラストパスやクロスの精度が足りなかったり、互いの呼吸が合わなかったりして仕留めるチャンスをフイにしてしまった事。守備戦術の練習ばかりで攻撃にはほとんど手がつけられなかったせいもあるのだろうが、今後の課題である事は間違いない。ただ単に戦術を守るだけで選手が精一杯なら、三浦俊也氏のチームと同じレベルだし(笑)。

それにしても、あれだけ自分たちのサッカーにこだわっていた日本が、攻撃的なエゴを捨ててここまで守備的なゾーン・ディフェンスを遂行できるようになったのは実に感慨深い。本来であれば、トルシエの後にこういうサッカーを日本は覚えるべきだったのだが、協会のトルシエアレルギーのおかげですっかり戦術面では「失われた14年」になってしまった。全くもって、川淵○ねとしか言いようがない。

欧州の強豪国はもちろん、今やアジアのイラクでさえも、ゾーン・ディフェンスを忠実にこなしつつ、試合の流れや時間帯によっては攻撃にバランスを傾けたサッカーを出来るようになっている。つまり、日本はやっとこさ守備戦術のスタートラインに立てただけのよちよち歩き状態であるわけで、ここからどう枝葉末節を伸ばしていくのか、興味深く見守ってみたい。