「香川に対する頑ななトップ下起用は、”落ちこぼれ”に対するトゥヘルの親心?」ヨーロッパ・リーグ ベスト16第1レグ ボルシア・ドルトムント-トッテナム・ホットスパー

現在プレミアリーグで優勝争いをしているスパーズと、ブンデスリーガでバイエルンと2強を形成しているドルトムントという、またもヨーロッパリーグとは思えない豪華なカードになってしまった対戦は、意外にもホームのドルトムントが終始スパーズを圧倒し、3-0という結果以上に大きな差を感じる試合だった。

その原因の1つとしては、スパーズが明らかにELよりもリーグ戦用にメンバーを温存した事にある。特にケインとデンベレという前線で確かな基点になれる選手を欠いた事で、そのしわ寄せが守備陣に及んでラインが上げられず、仕方なく真ん中を固めて壁を作ってはみたものの、ワイドでスピード豊かなドルトムントの攻撃には全く対策が意味を成さなかった。

ドルトムントのフォーメーションは一応並び的には4-3-3だが、攻撃時にはまるでミシャサッカーのようにSBまたはインサイドハーフが外に張った2-3-5のような形になるのが特徴で、フンメルスなどから前線に張った5枚のところにズバリと縦パスを入れ、そこから他の選手が中に入ったり、その動きで相手のマークが釣られたところを他の選手がオーバーラップしてみたりと、とにかく縦パスによってスイッチが入った後は、ウイング、インサイドハーフ、SBの選手が入れ代わり立ち代わりサイドを駆け上がり、そこにまたダイアゴナルなパスが出るなど、ワイドかつダイナミックにパスで崩す攻撃は見事というしか無い完成度である。

ここでも散々、トゥヘル監督のグアルディオラコピー路線については指摘しているが、やはり選手がローテーションしながらどんどん正確にパスを回し、サイドを大きく使って行く攻撃はバイエルンとコンセプトはほぼ同じである。あえて違いを挙げるとすれば、バイエルンがドゥグラス・コスタやロッベンのドリブルがアクセントになっているのに比べ、ドルトムントはオーバメヤン、ロイス、ムヒタリアンのスピードを前面に出しているぐらいだろうか。

そう考えると、トゥヘル監督があれだけ前半戦に活躍した香川を本来のインサイドハーフじゃなくて、あえてトップ下で起用し、なおかつ中盤に下がるなと厳命している理由が何となく分かるような気がする。この試合では香川は81分に交代出場で入ったのだが、やはり良かれ悪しかれ、そこまでのドルトムントでプレイしていた他のメンバーとはリズムが異質なのだ。

香川は前線に張っていても、ついボールをもらい行こうとして後ろへ下がってしまうし、ボールに正対した角度でボールを受けようとするので、マークに付かれるとどうしてもバックパスにならざるを得ない。他の前線にいる選手は、中盤の選手がボールを持つとだいたい半身になった姿勢になっている。こうする事で、裏へ抜ける動きがしやすくなるし、マークに付かれた状態でボールを受けても、相手をスクリーンしながら前に展開する事が出来るわけだ。

やはりトゥヘルが目指すサッカーが、ワイドでスピーディーにボールを動かして4-4のゾーンを揺さぶって攻める形を目指している以上、香川のようにバックパスでリズムを作りながら緩急で攻めていくタイプの選手は使いにくく、インサイドハーフに置いてしまうと皆香川の展開力を頼りにボールを集めてしまうため、トゥヘルサッカーが”香川サッカー”になってしまう事を恐れているのだろう。

とは言え、やはりトゥヘルにとっても香川のようなタレントを干してしまえば良いとは思ってないはず。だからこそ、あえて不慣れなトップ下で起用することで、チームへの影響を抑えつつトゥヘルのコンセプトにフィット出来るようになってもらおうという”親心”があるのかもしれない。