「ネイマールじゃなくてアギーレ被害者の会を結成するレベル」国際親善試合 日本-ブラジル

普通は、親善試合でもブラジルが相手ならメンバーは確実に現時点でのベストを選んで戦うものなんだけど、試合前に発表されたメンバーを見た時には思わず自分の目を疑ってしまったね。まさか完全に選手の先行テストに使ってしまうとは!

何しろ欧州組の出場は岡崎と酒井高徳、田中順也、川島のみで、中盤の3人はアンカーが田口で両脇に森岡と柴崎という、Jリーグのオールスターでもやらないような守備力無視の面子を並べてきて、当然のようにブラジルに中盤を蹂躙されてネイマールに4点をプレゼントする羽目になってしまった。

その選手選考についてアギーレ監督は、「選手たちのキャラクターを見るためだ。アジアカップのような重要な責任のある場に挑めるかどうかを見たかった。たくさんの結論を見ることができた」と語っていたが、それにしてはあまりに選手にとっては過酷な試練で、特に森岡や田口といったクラブでもそのポジションでやった事がない選手にとってはほとんど嫌がらせレベルだったように思う。

多少アギーレの肩を持ってみれば、もしかするとシンガポールのピッチ状態を見てまともなサッカーは出来ないと判断し、あえて最も微妙な立場にいる選手を先発させ、個人だけで対処せざるを得ない極限状態の中でいったい彼らの中に何が生まれるのかを観察してみたのかもしれない。そして後からビデオを見ればブラジルとの個人能力の違いは明確に分かるし、心が折れてなければ発奮、精進する貴重な財産になるだろう。

まあこれではっきりしたのは、アギーレはザックのような物分りの良い指揮官ではなく、トルシエやオシムのように協会やスポンサーの都合などこれっぽっちも考えないタイプだと言う事だ。日本に招聘した原さんへの風当たりは強いだろうが、アジアカップの結果次第では内外から相当なバッシングを受けるかもしれない。個人的にはその路線の監督が好きなので何とか良い結果を出してほしいとは思うが・・・

さて試合の話に戻ると、日本とブラジルとの差はもちろん基本的なテクニックにもあるのだが、それよりも攻守の切り替えや寄せの速さ、荒れたピッチに素早く対応できる経験値といった後天的なスキル、個人としての引き出しの多さの差が大きいように思う。

ブラジルの選手がマイボール時には常にスペースへと人が動いてパスコースを作り、ワントラップで相手の足が届かない場所にボールを置いて流れを切らずに繋いでくるのに対し、日本選手はボールをコントロールする事だけに必死でプレイイメージが持てず、周りも動き出しが遅くて自分のタイミングでボールが来ないと足を止めてしまうので、すぐに攻撃がスローダウンしてしまう。

日本とブラジルのカウンターになりそうな場面を見ると分かる通り、カウンターでは必ずファーサイドの選手が上がって5人ぐらいでサイドチェンジやクロスへの準備を作っているのに対し、日本はボールサイドの選手と前線に残っている2~3人の選手だけで常時数的不利の状態にしかなっていない。これでカウンターをやれと言っても無理な話である。

守備でも、ブラジルはあえてバイタルなどにスペースを開けて自分の間合いに呼び込んでからガツンと寄せて奪ってしまう。田口がむやみに飛び込みまくってパスで交わされていたのとは対照的で、日本がボールを受けてから次のプレイへ移るのが遅いのを見切った余裕が感じられた。

その点で唯一ブラジルに対抗できていたのが岡崎で、マークに来る相手との距離や角度の違いによってボールを下がりながらキープしたり、相手と入れ替わるように裏に抜けてみたりと、個人戦術に幅があってブラジルに的を絞らせなかった。それは岡崎がドイツでの日々で獲得したスキルであって、日本の選手もやる気があれば十分会得できる能力なはずだ。日本選手はブラジルに学ぶのと同時に岡崎の努力にも学んでもらいたいものだ。

まあそんなわけで、今回はアギーレ的視点で見た場合の選手合否を書いてみる事にする。

残念だった選手

田口:アギーレスパルタ起用の第一被害者。組織が全く機能しない中でのアンカーを任され、仕方なく不用意に飛び込みまくってあっさり交わされ、守備の穴を作りまくった。後半に高さで挽回出来たのはせめてもの救いか。

森岡:インサイドハーフというただでさえ難しいポジションで、終始ブラジルの中盤に埋まって身動き取れず、ただ迷子のように戸惑っていた。カウンターの場面でもほとんど顔を出せなかった。

田中順也:岡崎をフォローすべき1番手であるべきだったが、守備に追われて攻撃での貢献は皆無。周囲の状況把握が遅くてフリーでもあっさりバックパスしたりと試合勘の欠如は深刻。

川島:W杯からクラブでの出来も含めてどうもおかしい。良かったのはシュートに対する反応ぐらいで、ネイマールのテクニックに対して為す術なし。キックもミスが多い。衰えるには早いと思うのだが・・・

酒井:まだ若いけど経験値的にはリーダーとして振る舞うべき選手のはずなのだが、ほとんど攻撃の事しか頭に無く、無謀なタックルや塩谷放置の攻め上がりと玉砕上等プレイ。クラブでもずっと同じでほとんど落ち着きが増して無いのが泣けてくる。

柴崎:失点につながる軽率なミスを2回。それ以外でも対人守備の軽さを露呈。クラブでは小笠原のフォローを受けているのだろうが、世界に出るなら自分で止められる選手にならないと。今後も起用される事は間違いないが、ここから生まれ変わらないとロシアは厳しい。

良かった選手

塩谷:さすがにネイマールにはやられたがその他の選手が相手ではフィジカルでも単純に負けず、果敢に攻め上がって縦パスを出したりとブラジル相手にも全く物怖じせず、まさにアギーレ好みのキャラクターを見せた。

太田:スピードとクロスの精度に非凡な輝き。層が薄い左SBの候補に名乗りを上げる。もっとカウンターで積極的に出られればと思うが現状でそこまでの望みは酷か。

武藤:マリオ・フェルナンデスとのスピード勝負で勝利し、アスリート能力でブラジルに対抗できる事を示した。クロスやシュートの判断、タイミング、精度が向上すれば欧州でも十分通用できる。

岡崎:この試合で唯一ブラジルと互角に戦っていた選手。ポストにシュートに守備にと正真正銘の孤軍奮闘。これ以上の仕事をやれと言っても無理。努力次第でブラジルに追いつけるという希望を見せた存在。日本はいかに第二第三の岡崎を作るかだ。