「これこそ最強の矛と盾のぶつかり合い」J1第16節 サガン鳥栖-川崎フロンターレ

1つ古い試合になるけども、ツール・ド・フランスによるサッカー観戦中断中の、2位の鳥栖と3位の川崎が対戦するこの試合は見ておきたかったので録画しておいた。

前にも書いたように、W杯が終わってからのJリーグの観戦ポイントをゾーンディフェンスの浸透度に置いていたりするんだけど、その点で見るとサガン鳥栖はかなり高いレベルで組織化されているのが分かる。

まず相手のカウンター時にはDFがディレイをしながら4人のラインが揃うまで待つし、バイタルに入った選手に対するDFのアタックと残りの3人の絞り込みも忠実で終始コンパクトにまとまっている。川崎が中村憲剛を中心として執拗にバイタルに位置した選手に縦パスを通してくるんだけど、前に見たヴィッセルやガンバと違って変に最終ラインが前線の動きに釣られないので、バイタルにきちんとフィルターがかかってボールを漏らすことがない。そして中盤の4人はしっかりL字のラインを作ってボールの反対サイドにいるSHが高い位置を取れているので、素早くカウンターに移れて攻撃にかける人数を多く作り出す事が出来る。

その中でもある意味目を引いたのが安田理大の働きで、昔はやたらとちょこまか攻撃に顔を出したがる選手だったはずなんだけど、オランダでの修行で身につけたのか終始落ち着いたポジショニングでゾーンを守り、1対1では激しく競ってクロスを上げさせず、攻め上がりも無闇にオーバーラップするではなくて常に人が薄いサイドへの展開を心がけるなど、すっかり欧州風のプレイになっていて驚いた。だからこそ、同じサイドのSHも高い位置を取れるのだろう。

逆に川崎は「ゾーンディフェンス、何それ美味しいの?」というぐらいに守備のポジショニングは見事にバラバラ(笑)。一応はゲーゲンプレッシングが基本みたいだけど、その最初のプレスの壁を突破してしまったら至る所にスペースだらけの状態。残念な事に鳥栖のほうが川崎に出来ている守備の穴を上手く使えず、サイドからのクロス一辺倒になってしまったために最後まで点は取れなかったが、組織は出来ているけど臨機応変に戦い方を変えられる器用さがあれば余裕で勝てたのにと思ってしまった。

逆に川崎は守備を一切顧みない分、攻撃の応用力はさすがなものがあって、鳥栖のゾーンプレスが機能している間はなかなか攻め手が無かったが、後半の20分過ぎから鳥栖の運動量が落ちてきて、今までだったらゾーンを整える動きをしていた各選手が、やたらと人に反応して内側に絞るポジションを取るようになり、そこを川崎がすかさず見抜いてサイド攻撃の厚みを増したところは、やはり川崎ならではの持ち味だなと感じさせた。

鳥栖の失点場面を見ても、川崎がしつこくオーバーラップからサイドを攻めている内に鳥栖がどんどん人に釣られて数的なバランスを崩し始め、最後は完全に登里がサイドでフリーになり、そのままドリブルで入られてシュートを決められてしまった。前半の秩序だった鳥栖のままだったらまず防げた失点である。最後に鳥栖はパワープレイから金民友が押しこむチャンスはあったが決めきれず満員のホームで悔しい敗戦。

途中で疲れて組織は壊れてしまったとは言え、ちゃんと日本にもオーソドックスなゾーン・ディフェンスでJ1で優勝争いをしているクラブが存在しているのは心強い。もっとも、それが日本人ではなくて韓国人監督というのが残念なところだが・・・日本にも三浦俊也氏や松田浩氏らゾーンディフェンスの専門家がいるけどどうもパッとしないんだよねえ。ユン・ジョンファン監督といったい何が違うのか是非知りたいところである。