スペインの勝負強さはいつ培われたか

昨日、スペイン対ナイジェリアについての戦評を書いたのですが、その後お久しぶりのZEROさんから極めて丁寧なスペインの勝負強さについての解説をいただきましたので、転載させていただきます。

スペインについてはサポーターである私の方が多少は背景知識があるかと思いましてご連絡差し上げます。
ガゼッタ様がご指摘されている勝負強さですが、スペインが今までずっとそうだったかのようにマスメディアで、あろうことか解説者等までが発言していることがとても気になっています。
スペインがいつ勝負強さを身につけたのかと言えば、ベースはEURO2008です。そして、コンフェデ杯2009のアメリカ戦の敗戦、スイス戦の敗戦に始まる南アフリカW杯、EURO2012と勝ち続ける中で徐々にチームの経験値として積み重ねられてきました。
スペインが脅威的なのは、その経験値を近年独占しているために、いかようでも勝つことが可能であるということです。
例えば、EURO2012を例に取ると
リードした後は相手が自分等より下手であればテキトーに攻めさせておけばミスが出て追加点が取れる
➡決勝のイタリア戦;EURO2008のロシア戦で経験済み
90分では勝てないが、延長やPKに持ち込めば勝てる
➡準決勝のポルトガル戦;EURO2008のイタリア戦で経験済み
なかなか崩せなくても最後までチャンスを待てば勝てる
➡GLのクロアチア戦;EURO2008のスウェーデン戦で経験済み
GL初戦で敗退は絶対に許されない
➡GLのイタリア戦;W杯のGLでスイス戦で経験済み
今大会をさらに重ねてみると
ウルグアイ戦;W杯のスイス戦
タヒチ戦;コンフェデ杯2009のGLで経験済み
ナイジェリア戦;EURO2008のロシア戦とスウェーデン戦
となります。ナイジェリア戦の三点目に注目が集まっていましたが、終了間際の集中力が切れそうな時間にロングボールが有効であることは、ビジャ自身がスウェーデン戦で経験済みであり、それが頭によぎったのでしょう。
このように、過去の経験を主力メンバーが共有していることこそがこのチームの隠れた強さであり、黄金時代のフランスでもできなかった(途中でデシャンやブランが引退した後、後継者を見出せず勝利を続けられなかった)偉業でありましょう。
さて、ではそのスペインが昔から勝負強さや試合巧者だったかというと、繰り返しですが全くそうではありません。むしろ、日本同様一本調子で、勝負弱いチームだったのです。
例えば、W杯日韓大会ではペース配分を考えずに攻めまくったアイルランド戦では相手にペースを渡してPKに持ち込まれ、EURO2004では守備に穴を開けて攻めまくってポルトガルに敗れ、W杯ドイツ大会では攻撃的に戦いすぎてフランスに完敗しています。
一番分かり易いのがフランス戦で、相手が出てこないのは分かっていたわけですから、先制した後は敢えて自陣に引いてフランスを焦らせるという戦い方もできたのです。しかし、ラインを無理やりあげる無茶な戦い方をずっと貫いて、リベリにやられてしまいました。そして、そのためのメンバーもいませんでした。
10年以上前のスペインはボールを奪えて捌けるボランチと、高さ、強さ、スピード、テクニックを兼ね備えたサイドバックがおらず、それがずっと穴になっていました。
10年前はバラハとアルベルダの全盛期だったこともあり、アルベルダがボールを捌けないためにチームの弱点になっていました。EURO2004で負けたのも、その二人に展開力が乏しかった、中央の崩しができなかったことも一つの原因でした。
もちろん主たる原因はオールスターを並べただけで穴だらけのシステムを選択したサエスなのですが。それを埋めたのがセナでありブスケッツであり、セルヒオ・ラモスです。アルベルダのコンディション不良でセナがスタメンに入り、さらにセナの故障中にブスケッツが現れたのはもう運としか表現できません。
戦い方という点では10年前は繋いで繋いでサイドからクロスのワンパターンで真ん中をワンツーで崩すとか、ショートカウンターから一気にゴールを奪うということはほとんどありませんでした。実際にEURO2004では守備を固めたギリシャを崩せず引き分けに終わり、フランス戦は守備的なフランス戦はに完敗しています。
しかし、チームにとっての向き不向きは別にして、一段引いた位置からのカウンターと前に出てのシンプルな繋ぎからの中央突破の組み合わせをEURO2008で見出したことで、チームの戦い方に柔軟性が生まれました。
スペインに柔軟性が昔からあった、前からの守備が強烈だったというのは、昔の映像というより五年前の映像すら見ていない大嘘で、サポーターとしては眉唾ものです。EURO2008は一段引いて穴を消して戦っていましたし、大会の中で柔軟性を身につけていきました。現在はそれを選手自らが考え、デル・ボスケがそれを壊さず発展させている、ということです。
従って、積み重ねやカシージャスの言葉にあるようにかつての悔しい思いがあるからこそ、今があるわけで一朝一夕にはできません。その証拠に負けている時代からのレギュラーはカシージャスのみです。最近は呼ばれなくなったプジョル含めても二人しかいません。
その点で、スペインの例に学び、日本がどのように勝負強さや試合運びを身につけるべきかを考えますと、自分たちの弱点を意識しながら、かつ自分たちのポリシーは曲げずに努力し続けるしかないのではないでしょうか。
スペインもEURO2008で勝てたのも監督が無茶な采配を控えて自重し、我慢をしたことでチームが安定して、運が向き、勝利が転がりこみました。
運のことばかり言うとかつてジーコ力のようで嫌ななのですが、あるところで壁を破るには努力し続けるプラスαの運がやはり必要だと思います。運が向き、結果がついてくることでさらに自分たちを信じられるようになり、自信が増して負けが減ります。
したがって、その点でイタリア戦は非常にもったいない試合でした。イタリアの出来がどうであれ、自分たちの戦い方を貫いて勝てれば大きな自信になったはずです。実際にセスクもEURO2008でイタリアに勝った事が分水嶺だったと語っていますし、日本にもその可能性があっただけに惜しかったですね。
是非来年の本大会ではそうした機会が訪れて欲しいと思っています。
なお、解任論が出ているらしいですが、何か勘違いしている人が多いように思うのですが、それは私だけでしょうか。そして、長期のスパンで物を考えられないというこの国のマスメディアの弱点が出ているような気がしてなりません。課題はどの国でもあるわけで、それを克服できるかが問われているわけで、現状でザックを解任するに足る理由があるようには僕は思えません。
なお、それに関連していうと攻撃的な采配がとか、無策だとか色々言いますが、攻撃的な交代ばかりが良いわけではないことは、スペインのフランス戦において実証済みですので、こんなのは解任するに足る理由ではありません。
長くなってしまいましたが、相変わらず薄っぺらい議論で安易な比較論やスペインへの羨望を述べる議論があったため、書いてみた次第でございます。

まさにその薄っぺらい議論を書いてしまっているものとして、何も付け加えることが無い、ぐうの音も出ないご高説ありがとうございます。
確かに、昔のスペインは強い時は強いけど、負ける時はころっと負ける脆いチームでしたよね。モロに審判○○だったとは言え韓国に負けた2002年の試合を直に見た者としては、あの頃のひ弱さが思い出されました。
マスコミが長期の視野に立てないのは、イングランドもイタリアもスペインもブラジルも、結局どこも似たようなものだとは思いますが(笑)、せめて協会はきちんと大局的な方向性を考えて戦略を立てて欲しいものですよね。